第72話 ページ25
A side
何を言われるのだろうか…そわそわしながら校長室へと向かう。
「…って聞いてる？」
『えっあ、はい』
「絶対聞いてないでしょ」
先輩とくろはそう言って笑うが、私はかなり緊張している。会話は全く入ってこない。
校長室までそんな調子で歩き続け、着いたころには深呼吸を何度も繰り返していた。頭は真っ白だ。
ノックをして、
『「失礼します」』
そう声を揃え、中へ入った。
「事情については聞いているよ、一度魔法を見せてくれないかな」
校長先生は、穏やかな表情で、私達を見た。
『「は、はいっ」』
やっぱりくろも緊張しているんだ、と少し安心しつつ、
『どうする？私から？くろから？』
と小声で声を掛けた。出来ればくろからがいい。最初はさすがに緊張する。
「ま、まあどっちでもええけどAから？」
『う、うーん』
しかし、話し合いは平行線。それを見かねた校長先生は、
「じゃあ、君からね」
と私に目を合わせた。
…どうせやらなきゃいけないから、失敗することなんてないから、と心を奮い立たせる。
『…ミラージュ・ヘイル』
そう呟いてから数十秒後。魔法の効果は切れ、周囲は、何事もなかったかのように元に戻った。
何か言われるのだろうか、と先生へ目を向けるが、
「じゃあ次は君ね」
と私には何も言わず、くろを見ていた。
くろの魔法が終わった直後も、私達に声を掛けることはなく、ただ
「なるほど」
そう呟いて、考え込んだ。
静寂が包む校長室の中、ぼんやりと飾ってある花や、写真を見ていると、
先生が顔を上げた。全員の視線が集中する。
「そうだな…二人のクラスを進級する」
と晴れやかな表情で先生は言った。
「『進級……？進級！？』」
二度目にしてようやく、その言葉を理解した。
「会った時点から、二人の魔力が壮大であることはわかっていたし、魔法を見てもそうだ。Sクラスレベルだ」
そう言って先生は微笑んだ。呆気にとられた私たちをそっちのけに、
「明日からSクラスの教室に行きなさい」
そう言われ、私達は、
「『はい』」
あまり状況を把握することも出来ず、そう返事することしか出来なかった。
『「失礼しました」』
挨拶も、教室への帰り道でも、行きとは別の意味で頭が真っ白だった。
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作者名：玲華 | 作成日時：2020年7月20日 0時
