PRESTO！2nd【ars M.A】 (ページ39)

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74.遅れてやって来た。ページ39

小さなテーブルに弁当を置くと、対面に座る事が出来なくて少しズレて対角線に座る。

Aちゃんが淹れてくれた麦茶をコクンと飲んで、チラッと彼女を見ると

綺麗なお箸の持ち方で、煮豆を挟んでた。

真似して俺も煮豆を挟むと、ツルツル滑る。

パクッと煮豆を食べたAちゃんが、そんな俺を見てクスクス笑う。

「もー刺しちゃえ！」
「それ最後の手段だね、雅紀くん」

煮豆に箸を突き刺して食べると、ほんのり甘くて美味しい。

「Aちゃんのお弁当、唐揚げ入ってないの？」
「うん、焼き魚弁当だもん」
「じゃあ、一個あげる！」

唐揚げ弁当を選んだ俺の方には、五個の唐揚げ。

その中から、一個Aちゃんのご飯の上に乗っけた。

「ありがと！じゃあ、私からは...」

Aちゃんのお箸が鯖の塩焼きを切り分けて、俺のご飯の上に運んで来た。

「何か豪華なお弁当になったね」

ニコッて笑うAちゃんが可愛くて可愛くて、唐揚げを口に頬張ったまんま目が釘付けになる。

「ん？雅紀くん、どしたの？」
「んっ！？んーん！！はんへほはいっ！」
「口の中の物が無くなってから喋って下さい！」
「...ほへんははい...」

お母さんみたいに言うAちゃんもやっぱ可愛くて、ドキドキするんだ。

普段からもう何度も食べてる唐揚げ弁当が、いつもより格別に美味しく感じるのに

ちょっと喉を通りにくいのは、きっと胸がいっぱいだからかな。

「美味かったぁ、ごちそうさま！」
「ごちそうさまでした」

食べ終わった弁当の容器に蓋を被せて、中身が入ってた時のように輪ゴムで留める。

それをAちゃんがまとめて片付けてくれた。

「あ、Aちゃん。ベランダ借りても良い？」
「良いよ。あ、煙草？」
「うん、そう」

ケツポケットから出して床にそのまんま置いてた煙草を持って立ち上がると

「あっ！雅紀くん、ちょっと待って！」

Aちゃんに呼び止められた。

「ん？ベランダ、散らかってるとか？」
「ベランダはさすがに散らからないよ」

フフッて笑うAちゃんが、クローゼットを開けて中から何か取り出す。

「これ...渡せてなかったから...」
「え？...え？」

Aちゃんの手には、小さな紙袋。

「あの、ホワイトデー...なんだけどね...？」
「ホワイトデー...？」
「だって雅紀くん...」

ちょっと俯いたAちゃんが、言う。

「あのチョコ、お土産じゃないって...言ってたから」

もう、俺、心臓壊れちゃいそうだ...。