PRESTO！2nd【ars M.A】 (ページ29)

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64.彼女のホント。ページ29

「デキ婚って言っても、結婚はおめでたい。社内はその結婚で盛り上がった訳だよ」
「......」
「Aはさ、その男と付き合ってた事を誰にも言ってなかったから...」

浮気した元彼と、浮気相手の女を祝福してる顔をしなきゃなんなかったんだ。

香取さんの言葉に、俺がその立場だった訳じゃないのに腹の底が煮え繰り返りそうになる。

「しかもさぁ、その女もすぐ仕事辞めりゃ良いのにギリギリまで働くってずっと会社来てたらしいんだよ」
「ずっと...」
「もちろん、女のお腹はどんどん目立つようになる。それを、Aは見てなきゃいけなかった」

短くなった煙草を灰皿に押し付けて、香取さんは俺を見た。

「だから、アイツは仕事辞めた。無理だったんだろうな、あれ以上我慢するの」
「...誰にも...その...何も言わずに...？」
「そーゆー奴なんだよ、Aって」

俺ならブチまけてから辞めるけどな！って、ちょっと悲しそうな笑顔で笑う。

「自分が暴露しちゃうと、その浮気相手も傷付くから...って。その妊娠した子も知らないんだから、Aとその男が付き合ってた事」
「そんな...」
「お腹に赤ちゃん居る子を傷付けられないんだって、自分はボロボロに傷付いたくせに」

何だよ...もう...

そんな事...俺、何も知らなかったよ...

「ま、そんな話をね。俺は無理矢理アイツから聞き出した訳」
「無理矢理...？」
「実家に篭っちゃったAを心配したアイツの母親に頼まれたんだよ、俺たち幼馴染で兄妹みたいなもんだからさ」

何故か、自分の事じゃないのに、ずっと胸がムカムカ、気持ち悪い。

そして、ヒリヒリ、痛い。

そこに、ジリジリと焼けるように感じるのは、きっと嫉妬。

香取さんへの、汚い嫉妬だ。

「Aを放っておけないと、思ったんだ」

香取さんが俺にそれを言うのは

「今...香取さんが、Aちゃんを支えてあげてるって事ですよね...」

そう、俺に伝えたいからなんだよね？

「相葉くん、ちょっとニュアンス違うかも。支えてるって言うか...まぁ、立ち直るまで面倒見てやったって言うか...」
「...え...っと...Aちゃんが今付き合ってるのが...香取さんって事なんですよね？」

俺の、もう消えちゃいそうな声に香取さんは小さく笑う。

「俺が相葉くんに会いに来たのは、その話もする為なんだよ」

すっかり冷えたコーヒーが入ったカップを持ち上げながら、俺はゴクン、唾を飲み込んでしまった。