56.TEMPTATION。 ページ21
「待って待って！アイちゃん！」
アイちゃんはポイッポイッとパンプスを脱ぎ捨てて、部屋に上がった。
ショートパンツから伸びたストッキングに包まれた真っ直ぐで綺麗な脚。
勝手に「リビングに進むんだろう」と思ってたその綺麗な脚が、玄関のすぐ脇にある寝室に入ってく。
「えっ！？アイちゃん！？」
慌てて俺も寝室に入ると、アイちゃんは目の前に立ってて俺の両手をギュって握った。
そのまま、ベッドまで引っ張られて
「ちょっ...うわっ！あぶな...っ！」
「キャッ...！」
バランスを崩してベッドにポフンと倒れたアイちゃんの上に、俺が重なるように倒れ込む。
ふわふわの女の子のカラダ。
このふわふわが久し振り過ぎて、何か、頭クラクラする。
アイちゃんの身体に覆い被さってしまってた自分の身体を起こして、思わずベッドの上に正座...
「...アイちゃん、酔ってんの...？」
「友達と飲んでたらねぇ...終電無くなっちゃったぁ...」
「友達んちは？この辺なの？」
「んー...でもねぇ...その子、彼氏が家に来ちゃってぇ...」
あぁ...そりゃ気まずいよなぁ...
...って！だからって俺んち！？
「雅紀くんち、この辺だったなぁ...って思い出してぇ...来ちゃった」
「来ちゃった...って...」
「...迷惑...？」
「いや...」
いや...って何だよ、俺！
『迷惑だ！』って追い返せよ！
「あの...さ、俺ね？好きな子が...」
好きな子がいるから、他の女の子とこんな風にベッドルームで向かい合ってるのは非常にマズイんだ。
「雅紀くん...彼女できちゃったの？」
「彼女...は、居ないけど...」
ってか、そうだよ...
むしろ、失恋したんだった...
そうだよ、俺、失恋したんじゃん。
「片想い中？」
「...失恋中かな」
「だったら、私が慰めてあげる...」
「え...」
正座してる俺の首にふわりと巻き付く、アイちゃんの腕。
お酒の匂いよりも強く香る、女の子の甘い匂い。
「アイちゃん...」
そうだよ、好きでも意味無いじゃん...
こうやってAちゃんを抱き締める事だって出来ないんだ。
アイちゃんの細い腰に手を回す。
Aちゃんちに、香取さんが居た。
男が、居た。
胸が苦しくって、痛くって、頭が真っ暗になってくみたいだ。
「雅紀くん...」
緩く微笑んだアイちゃんの唇が、俺の首筋に触れる。
「...シよ？」
耳元で囁かれた言葉に、俺はアイちゃんの身体をベッドに文字通り
押し倒した。
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作者名：rei
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=reika72
作成日時：2014年4月16日 13時
