PRESTO！2nd【ars M.A】 (ページ20)

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55.次々と。ページ20

前に見た時と同じ、ふわふわの茶色い髪。

背が高い香取さんを見上げたまんま、足が勝手に一歩下がってしまう。

「あ、相葉くん」

口角が上がった大きな口から、俺の名前が出て来た。

え...何で...？

何で香取さんが居るの...？

「あ...えっと...」
「ごめん。A、熱出してて」
「はい...あの...」

ごめん...って何だよ

「これ...Aちゃんに渡しておいて下さい」

さっき買い込んだお見舞いセットを香取さんに押し付けるようにして「失礼します...」俺は頭を下げてそのまま廊下を引き返した。

さっきドキドキしながら昇った階段を、今度は違うドキドキで息苦しくなりながら駆け降りる。

「...マジかよ...」

チャリに手を掛けた時、傍らに路駐されてる車に初めて気が付いた。

でっかい四駆の車。

初めて香取さんに会った時に、彼が乗ってた車だ。

「まだ俺、告白...してないって...」

告白する為の心の準備は、もう出来てた。

だけど、失恋する心の準備は...ちゃんと出来て無かったみたいだ。

もう、Aちゃんの部屋を見上げる事も出来ず俺は重く感じるペダルを踏み込んで、夜道を帰った。

・

重なる時は重なるってのは、こーゆーコトか...って思ったのは、その三日後だった。

通勤の時も帰宅の時もコンビニの前を通らないようにして、Aちゃんに会わないように会わないように...ってヘタレ全開で気を張って

その日もそんな感じで家まで帰って来た俺は、もしかするとAちゃんと会わずに済んだ安堵感で気が緩んでたのかもしんない。

もう寝ようかとしてた時間に鳴ったピンポーンって軽いチャイムの音に、何の確認もせずドアを開けてしまった。

「雅紀くん...」
「えっ！？」

ドアを開けたと同時に、ぽふん、と俺に抱き着いて来た女の子。

「えっ！？えっ！？」

女の子が俺の胸に埋めてた顔を上げた。

「...アイちゃん...」

『愛を探すんだ』なんて言ってた俺が、合コンでお持ち帰りしたアイちゃん。

『愛じゃなくって、藍だった』なんてオチまで付いてた、あのアイちゃん。

一回だけえっちした、脚が綺麗なあのアイちゃん。

そのアイちゃんが、何故か今、俺の胸の中に居る。

「え...どうしたの...？」
「...泊めて...」
「えっ！？」
「お邪魔しまぁす...フフッ」

フラリと俺の身体の横をすり抜けて、アイちゃんは玄関に入ってく。

ほんのり、お酒の匂いがした。