PRESTO！2nd【ars M.A】 (ページ14)

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49.山手線グルグル。ページ14

「お先ですー...」

傷を濡らさないように必死で右手を挙げて、左手だけで身体を洗った俺は

Aちゃんが待ってるリビングにフラリと戻った。

頭がボヤーっとしてるのが、お湯にのぼせたからなのか、シャンプーで疲れ切ったからなのか分かんない。

「Aちゃん、これ。眼鏡、忘れてたよ」
「そうなの！もう何も見えなくって。でも取りにも行けないから」
「別に取りに来てくれても良かっ...いや、来れないよねぇ！？そりゃそうだよ！」

普通の女の子は男子がお風呂入ってるのに、洗面所入って来れるはずが無いでしょ！

もー...男がシャワー中にその中にまで突撃して来るような女の子が普通だったって、ちょっとおかしいんじゃない、俺？

「あ、じゃあAちゃんもお風呂行っておいでよ」
「うん、ありがとう」
「タオルは洗面台に置いてあるから。バスタオルとファイスタオル。足りなかったら言ってね？」

うん、って頷くとAちゃんは鞄をそのまま持ってお風呂に行った。

「あぁぁぁ...何かもー...」

生殺しってヤツ？

密室に好きな女の子と二人っきりなのに、何も出来ないって修行だよ修行。

いや、でも、自分が作っちゃったんだし...この状況。

「うぅぅぅぅ...」

ソファに俯せになってクッションに顔を埋めてた俺の耳に届いた、イケナイ想像を掻き立てる音。

「や...っば！これはいかん...！」

ザー...って、シャワーが床を叩く音。

もう、その音だけであんなコトやこんなコトが頭の中をグルグルして

慌てて耳を塞いだ。

「こーゆー時は山手線だ...」

意識を他にやる為に俺はまた目をギュウっと瞑って、山手線の駅名を順番に心の中で唱えて行った。

「...きくん？雅紀くん？」
「ん...」
「あ、起きた」
「...ん？あれ...？」

瞼を開くと、肩にタオルを掛けてその端っこで髪を拭いてる

スッピンのAちゃん。

「あっ...！寝てた...」

慌てて俺が起き上がろうとすると「寝てて、寝てて！疲れてるでしょ？」って笑う。

「いや...山手線がさぁ...」
「え？」
「あ、ううん！何でも無い」

山手線の駅が完全に羊を数えてる感覚になっちゃったな...。

ってか...

スッピン！

そりゃね、正直メイクしてる状態の方が綺麗なんだと思うよ？

女の子は綺麗になる為にメイクしてんだから。

だけど、スッピンって何て言うか...無防備で、メイクしてる状態には無い色気があるって言うか...

とにかく破壊力が凄いんだってば！

もう俺、虫の息...。