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バルバルバル……と、決まった音を立てながら回る換気扇。
わたしは、ドグラとマグロを思い浮かべる。
客が座る用の椅子は6脚ほどで、店内の大きさも少し狭い。
二年ほど前の映画の宣伝ポスターが貼ってあるが、端の方が剝がれ落ちてしまっている。
店内が地下にあるためか、少し薄暗い。
が、それでも照明がきちんと牛丼を照らしている。
わたしが今感じているすべてが、大吉屋一号店にやって来たことを、しっかりと告げている。
――やって来たぞ、大吉屋。
大吉屋、それは牛丼専門店。
全国にチェーン店を展開しており、わたしが今来ているのが記念すべき大吉屋一号店である。
家族の目を盗み色々なお店を回って来たわたしだが、大吉屋一号店に足を運んだのは初めての事だったのでいささかテンションが上がっているのだ。
まさか、大吉屋(しかも一号店!)がこんなに近くにあるとは……。
やっぱり、寝る前に三時間かけて調べたかいがあったな。
昨日晩、わたしは近所に大吉屋一号店があるとの情報を掴み、布団の中で必死にスマホで手当たり次第に調べていたのだ。
電気を落とした部屋で、ああやってスマホをいじることの罪悪感、上手くいけば祝福がつかめるという希望。
あの妙な感覚は、文字通り筆舌に尽くしがたい。
努力が報われたような気がして、わたしは少しだけしみじみとする。
さて。
わたしは、割りばしをパキリと力ずくで割った。
まずは、香りだ。
ツユダク牛丼の香りはそれはそれは濃くて豪快、上に乗った紅しょうがの香りがパンチをきかせている。
早く食べたいとでもいいただけに、わたしのお腹が啼いた。
うん、この音は牛丼を食べることを望んでいるに違いない。
わたしはヨシヨシと音を発するお腹を開いている手で撫でた。
次に、見た目。
見た目は本当に「THE・牛丼」という感じでシンプルだ。
雪のように白い白米の上に、牛肉とその他の具がどんどんどんと派手に乗っている。
その上から、つゆがぶちまけられ、美という美を演出し、紅ショウガがきりっと画面を引き締めている!
どんな芸術品を見ても感じないであろう感動が胸いっぱいにこみあげてくる。
牛丼は美だ。
このままずっと眺めていたいような気分になるが、食べ物の醍醐味は味だ。
わたしは、感動によって震える手で牛丼を一口つまみ上げた。
本日の令嬢メシ
親子丼
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しつり(プロフ) - Riさん» いやん有難うございます!!!!! (8月1日 0時) (レス) id: 9d188353e1 (このIDを非表示/違反報告)
Ri - これをお昼に見てむちゃくちゃお腹すきました (2021年7月1日 19時) (レス) id: a1ada8a15f (このIDを非表示/違反報告)
しつり(プロフ) - 蒼井とーるさん» わ〜ん有難うございます〜!なるほど、書籍化……その時は蒼井さんのお言葉を踏まえキャッチコピーを「深夜に読まないでください。飯テロします。」みたいなのにしようかな……? と思った自分がおりました。コメント有難うございました! (2021年7月1日 15時) (レス) id: 55349f7cd0 (このIDを非表示/違反報告)
蒼井とーる(プロフ) - はじめまして!とってもおもしろいです!深夜に読んだのを後悔するくらい飯テロされました!これだけ面白かったら、なろうとかに投稿したら書籍化できそうな気もするんですが…。 (2021年6月30日 1時) (レス) id: fcd5ddbb32 (このIDを非表示/違反報告)
しつり(プロフ) - 更新しました〜 よろこでっす∬ (2021年6月28日 18時) (レス) id: 55349f7cd0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しつり | 作成日時:2020年10月3日 13時