絶対零度のキミ (ページ1)

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「ギャハハハ！そういうの、やめた方がいいよ。だって！いい子ちゃん気取りかよ」

バシャバシャと浴びせられるホースの水が冷たい

壁に押さえつけられた腕がギリギリと痛んだ

「無様だねぇ、髪とかぐちゃぐちゃで貞子じゃね？」

助けて、なんて言葉は出てこなくて、酸素を求める金魚みたいに口をパクパクさせることしか出来なかった

ギャハハ、マジでそれなー

ぐるぐると取り囲むノイズに耳を塞ぎたくなった時

「ねぇ、やめなよ」

凛とした声がノイズを突き破り、鼓膜をふるわせた

同時に流れる水の感覚がなくなる

はっと顔を上げると、蛇口を閉めている男の子が目に入った

瞬間、私の中でことんと鍵が外れた音がした

今思えば、私はこの時、恋に堕ちたのであろう

「あ、いや、違うんだって、これは、その…ごめんなさい！」

逃げて行く女の子達

男の子は私を一瞥すると

「アンタさ、その自分を大事にしない癖、直した方がいいよ」

そう言ってくるりときびすを返す背中を慌てて追いかけた

「あの、ありがとう」

焦点が私に向けられドキリとする

「別に、俺が勝手に助けただけだから」

ドクンドクンと心臓の音がうるさい

「あの」

今この瞬間、この気持ちを伝えなくてはならない

否、伝えたいと思った

「す、好」

「無理」

え？

今、なんて…

「いや、ちょっと待って、待ってって」

聞き返す暇もなく背を向ける男の子

慌てて腕を掴む

おかしい

こういう時、少女漫画では、

「実は、俺もずっと前からアナタが好きで…」

とかなるはずなのに？！

「何？」

「え、助けてくれたのに？さっき心配もしてくれたのに、私のこと、好きじゃないの？」

男の子はその綺麗な顔を顰めた

「心配なんかしてない。アレは、自己犠牲精神のアンタを見ると…イラつくから」

がーんと頭を殴られたような衝撃を受けた

失恋なんて人生で初めてだ

無論告白したのも初めてなのだけど。

彼を見つめると、とろりとした蜂蜜を封じ込めたような瞳が私を捕らえる

「好き」

ぽろりと口から溢れでていた

男の子が嫌そうに眉を顰める

「濡れた手で掴んでも、嫌そうな顔しないところとか」

一瞬はっとした表情を浮かべ、元の嫌そうな顔を作り私の手を振り払った

そのままスタスタと歩いて行く男の子に

「ばいばい！」

と声を掛ける

返事はなかった