智あり雅やかな君に、潤い和み我も翔ぶ。【ars短編集】 (ページ5)

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●地上170センチメートル【A】ページ5

幼稚園の頃から、背の順は一番後ろだった。
男子よりも背が高いなんて当たり前だった。

中学高校で私より背の高い女の子にも出逢ったけど、私は女子の中では完全に『長身』と言われる背丈の持ち主に育った。

大人になった今でもそれはもちろん変わらない。
自然とヒールの無い靴やスニーカーを選ぶようになり、靴に合わせてどちらかと言えば男性的な服で仕事へ向かう。
満員電車で隣になった小さな女性が髪をふわふわに巻いてるのを羨ましいと思う。
ヒラヒラのスカートを履いてるのを羨ましいと思う。
電車から降りる時に彼女の足元がヒールで彩られてるのを見てしまって、羨ましさは少しの妬みに変わった。

私は毎日、そんな小さな小さな黒さを抱く。
その度に、やなオンナだなぁ...と自嘲して、せめて格好良く見えますように！と背筋を伸ばす。

でもそういう風に考えられるようになったのは、ここ数年。

「おっはよー！A先輩！」
「おはよ、今日も朝から元気だねぇ...」
「朝ご飯、ちょー食ってるもん！A先輩、ちゃんと食べてる？」
「朝は一秒でも寝てたいから食べてない」
「うっそ！それじゃー元気出ないよ！」

五年前、私の一年後輩で会社に入って来た相葉くんはいっつも元気で楽しそう。
顔も性格も可愛らしい典型的な『弟的男子』で、正直恋愛対象って部類では無かった。

それが変わってしまったのは、三年前の冬。

仕事で失敗をした相葉くんは上司に怒られて、さすがにいつものニコニコ笑顔も無くなっちゃって。
そのまま、オフィスを出て行った。

あー...可哀想に。慰めてやるか。
そんな気持ちで彼を追い掛けて屋上に出た。

そこで彼は俯いて、掌で目元をゴシゴシ擦った。
きっと、泣いてた。

でも次の瞬間、勢いよく空を見上げて背筋をピンと伸ばした。

その姿が、何と言うか、綺麗で。清々しくて。

近寄る事も、声を掛ける事もせず、そこに立ち尽くしてた私は当然だけど相葉くんに見付かってしまって。
彼は恥ずかしそうに「見られたー！」って笑ってた。

その時に、そう言えば相葉くんっていつも背筋をピンと伸ばしてるな...って気付いて

一緒にオフィスへ戻る時、何気無く言ってみた。

「相葉くんって、姿勢良いよね」
「意識してるもん」
「え？」
「姿勢悪いと、下向いちゃうの。でも背筋伸ばしたら、空が見えるでしょ？」

可愛い可愛い弟キャラだった彼が、一瞬で『片想いの彼』に変わってしまった瞬間。

身長差は、たった5センチ。