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転げ落ちて行くようだった。
まさか自分がホストに...
でも、普通のOLがそんな頻繁に行ける場所では無い。
お給料日の後、1ヶ月に1度だけ。
雅紀は、私が「黒い髪も似合いそう」と言うと翌月には黒髪になっていた。
「高校生みたいじゃない？」
「ううん、逆に大人っぽくって素敵だよ」
「そう？Aちゃんが褒めてくれるなら良いや」
ぺったり寄り添ってクスクス笑う雅紀を、可愛いと思った。
私が言った事で髪の色まで変えてくれるなんて、もしかして私は特別なのかな...なんて思ってしまった。
「『雅紀』って源氏名だよね？格好良い名前」
そう言うと、耳に唇を寄せて「これ、本名なの」ってヒソヒソ声で教えてくれた。
「違う名前で呼ばれても反応できないなーと思ったから、本名そのまんま」
「ホントに？」
「内緒ね？」
唇の前に人差し指を立てて、小首を傾げる。
そんな雅紀に、抱きつきたくなった。
でもそんな事、絶対に自分からなんて出来なくて。
だって私は単なる客だし。
そういう時、雅紀は私の表情で分かるのかそっと肩を抱いてくれたり、頭を撫でてくれた。
色んな報われない恋があると思う。
教師と生徒とか、相手が既婚者とか...
でも、私の恋も報われない恋だ。
ホストに恋をしただなんて、笑い話にもならない。
雅紀の元に通い出して、半年程した時。
彼の香りが変わった。
先月、甘い香りよりもう少し爽やかな方が似合いそうって私、言った。
「Aちゃん、この香りは好き？」
「すっごい好き」
良かった、って雅紀が身体をトンッと当てて来る。
涙が出そうになる。
「ねぇ、雅紀...」
「ん？」
「あ...ううん！何でも無い」
もう、この恋を手放したいと思った。
想っていても、辛いだけだ。
「ね！この後、飲みに行かない？」
「え？アフター？」
「良いバーがあるの！」
これを最後にしよう。
そう決めて、私は雅紀と最初で最後のアフターへ行った。
バーのカウンターでお酒を飲んで、雅紀の横顔を盗み見て。
泣きそうになりながら、笑った。
「私、全然売上にも貢献できないし良い客じゃないよね」
そんな事を言ってしまったのは、酔った勢いだったかもしれない。
「ねぇ、Aちゃん」
いつかの様に私の左耳に唇を寄せて
「俺、Aちゃんをお客さんだなんて思ってないよ？」
雅紀が囁く。
鼻にかかる、甘い声で。
左を見ると、すぐ側にあったその右頬が
キュッと上がった。
・・・・・END・・・・・
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作者名：rei
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=reika72
作成日時：2017年2月22日 17時
