智あり雅やかな君に、潤い和み我も翔ぶ。【ars短編集】 (ページ3)

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●サヨナラノサクラ【S】ページ3

出逢った訳じゃ無い。

私が一方的に見付けたんだ。

桜が舞い散る春の日に、友達と楽しそうに笑いながらグラウンドへ出て来たその姿。
ちょっと長めの髪をターバンでギュっと上げて、綺麗な丸いオデコが見えた。

ペタンとお尻をついてスパイクの紐を結び直す。
その視線は、グランドでウォーミングアップしてる部活仲間の方向。

スパイクを履いた彼は、その場でザザザっと駆け足で足踏みした後、走って仲間の輪に混ざって行った。

私はグラウンドの端っこで時間を忘れて、彼の姿を眺めていて

練習中の彼が「翔ー！」と呼ばれたのも聞き逃さなかった。

「...翔...くん...」

小さな声で言ってみて、すぐ「くん付けはダメだ！絶対に先輩だよ！」と思う。

高校に入学したばっかりのあの日。

既に三年生だった彼は、随分と大人に見えた。

・

「五十嵐！ポカリちょーだい！」
「ねぇ、五十嵐！タオルどこー？」
「五十嵐！五十嵐！ゼッケン破れたー」

私がサッカー部のマネージャーになったのは、彼を見た翌日。
一日でも早く、彼と近付きたいと思った。

昔から慎重派で何をするにも最低一ヶ月は悩んでたような私が、こんなに即行動したのはきっと一目惚れの力だ。

サッカーの事は全然知らなくって、ギリギリ「内田選手って素敵」とかが分かる程度だった私は必死で勉強もした。
学校の勉強よりも、サッカーの勉強。

「待って下さい！一度に言われても分かりません！」

そんな私もマネージャーになって二ヶ月が経ち、少しづつ色んな事に慣れて来た。
マネージャーさんは三年生に一人居るけど、やる事が結構あって二人でも大変。

「五十嵐に頼みごとがあるヤツは、ここに一列で並ぶように！」
「あ...櫻井先輩...」

私の隣に立って、「せいれーつ！」って言ってる櫻井先輩は

あの日、私が勝手に出逢って、勝手に一目惚れした人。

「すみません...」
「何で五十嵐が謝んの。つかお前ら、マネージャーに頼り過ぎなんだよ。タオルくらい自分で取れ、バカ！」

先輩が自分の首に掛けてたタオルを、さっき「タオルどこ？」って言ってた部員に笑いながら投げつけた。

「五十嵐も、そんなの自分で出来るでしょ？って思った事は相手が二年でも三年でも言ってやって良いんだからな？」
「あ...はい、そうします」
「是非そうして下さい」

顔を見合わせて、プっと笑う。

もうすぐ夏休みに入る、暑い暑い空の下。

蝉の声が、耳に届く。

先輩のオデコに汗が流れる。