智あり雅やかな君に、潤い和み我も翔ぶ。【ars短編集】 (ページ15)

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「そうそう、それで...」

先生がテキストを片手に、私の動かすPC画面を見てる。

大きな目、長い睫毛にふっくらした唇。

時々、その唇に人差し指を添えて「そうそう」って頷く。

「あれ？そこ、ちょっと間違ってるわ」
「え...」
「そこ」
「え、どこだろ...」
「あー、待ってよ？」

指摘された部分がどこなのか、何が間違ってるのか、全然分からなくてジーっと画面を見てると

先生が椅子から立ち上がって私の背中に回った。

「ちょっと、貸して？」

そして、先生の左手がトスンと私の左手の横に置かれて

右手は、マウスに乗せてる私の手に重なった。

そのままスゥっとマウスが動かされる。

「ここ。分かる？」

声が、真上から聴こえる。
低くて、少し鼻に掛かった大好きな声。

「わか...りません...」

本当は、分かった。
分かったけど、分かったって言っちゃうと先生はすぐに椅子に戻ってしまうと思ったら、勝手に口が嘘をついた。

「分かんない？だからさ、これをこっちに...」

手が重なってるマウスが、動かされる。
その先生の手から目が離せなくて、画面が見れない。

「こら、ちゃんと画面を見なさい。説明してるでしょうが」
「あ...はい。ごめんなさい！」

慌てて画面を見て、先生の説明を聞く。

「分かったでしょ？」
「...はい、わかりました」

これ以上分かんないって言ったら、オバカな子だと思われる。
それも嫌だ。

やっぱり先生は席に戻っちゃって、何だか背中が一気に寂しくて、寒く感じた。

「ほら、続き自分でやってみて？」
「......」
「おーい」
「あっ！はい！」
「何？俺に見惚れてた？」

先生が、片眉をクっと上げて笑う。
図星過ぎて、口が開いた。

「アハハッ！嘘だよ！そんなビックリした顔すんなって！」
「あっ...」
「そこまで出来たら、今日はおしまい」
「...はい」

できるだけ、ゆっくりとマウスを動かした。
ちょっとでも長くここに居られるように。

でもゆっくりにも限界はあって、私の願いは虚しく先生との補習は一時間弱で終わってしまった。
体感、五分。

「お疲れさん。帰ったら復習しとけよ？」
「はい」
「おっと...もう暗くなってるなぁ」

先生が立ち上がって、カーテンの開いてる窓の向こうを見ながら言う。
私も立ち上がって、暗くなってる空を見る。

「気を付けて帰れよ！」

ポンポンと頭を撫でられて

その掌を、独り占めしたいと願った。

・・・・・END・・・・・