智あり雅やかな君に、潤い和み我も翔ぶ。【ars短編集】 (ページ9)

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●BIG THUNDER【M】ページ9

雷が落ちた。

いや、実際どこかに落ちた。
だって凄い音がした。
地響きしてたし。

でも、それと同時に私にも雷が落ちた。

「隣に越してきた松本です」
「...松本さん...」
「あ、松本潤です」
「...松本潤さん...」
「えっとー...」
「あ、五十嵐です！五十嵐Aです」
「五十嵐Aさん」

ニッコリ笑った彼が、「覚えました」と頷く。

ドーン！と、また雷。
思わず「ヒィ！」っと声が出た。

「何かすみません。こんな日に」
「あ...いえいえ」
「これ、つまらない物ですがご挨拶に」
「あっ、すみません」

渡されたのは、引っ越しの挨拶定番の洗濯用洗剤。

「では、失礼します。今後ともよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」

カチャリとドアを閉めた瞬間、その場に座り込んで頭を抱える。

何だ...何だ今のは...同じ人間か？
とんでもない美形じゃ無かった！？
CGか！？いや、ドッキリか！？カメラはどこだ！？

キョロキョロしてる私の耳に、またドーン！と雷の音が飛び込んできた。

雨も上がりよく晴れた翌朝、ドッキリでも何でも無く本当に彼は隣に引っ越してきたんだと再確認。
学校に行く為に玄関から出たら、同時に彼も家から出て来た。

「あ、おはようございます」
「あ...はい、おはようございます...」

日光浴びると、更にキラキラ感が凄い。
何だ、本当に人間なのか？

「五十嵐さん、これからお仕事ですか？」
「いえ、大学へ...松本さんはお仕事ですか？」
「いえ、僕も大学へ...って、五十嵐さんっておいくつですか？」
「21歳です。大学三年」
「うっそ！同い年だ！」

漫画だったら背景に花背負ってキラーン！って効果音ついてるよ。

彼は私が同い年って事に仲間意識を持ったらしく、それから家の前で会うと喋りかけて来るようになった。
「松本さん」って呼ぶと「同い年なのにやめてよー！潤で良いから」なんて、呼び方を変えさせる強引さ。
それと揃えるように「Aはさぁ」なんて、自然と呼び捨てして来るフレンドリーさ。

あの日落ちた雷は、ジワジワと私の心を侵食して行って

私が潤くんに堕ちちゃうのなんて、本当に簡単だった。

隣に好きな人が住んでる。
それって凄い。

時々、潤くんの部屋から小さく音楽が聴こえて来る。
それを聴こうと壁に耳を当てて、...これストーカーっぽい！って慌てて壁から離れた事もあった。

時々、ベランダに出ると洗濯物を干してる潤くんの口笛が聴こえる。