智あり雅やかな君に、潤い和み我も翔ぶ。【ars短編集】 (ページ17)

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あの日から、毎朝その子に会った。

家を出る時間が同じなのか、同じ頃にホームに着く。
隣に並んで電車を待つことが多いけど、ちゃんと話した事は無い。

紺色に赤いスカーフのセーラー服。
この制服は、女子校の涼風学園だ。

膝丈のスカートに紺色のハイソックス、黒いローファー。
学校指定の鞄に、パツンと切り揃えられたおかっぱ頭。
あ、ボブっていうんだっけ。

ある日彼女がやたら襟足を気にしてるなぁって思ったら、ちょっと毛先が跳ねてた。
何だかそれが可愛くて。
可愛いって思ったら、気になっちゃって。

俺は毎日、毎日、彼女をチラチラと観察してしまうようになった。

チラチラ見る度に、ドキドキも増してった。

電車に乗り込むと、例外は無く毎回満員。
ギュウギュウの電車に乗り込む。

でも最初みたいに嫌じゃ無い。
だって、隣には彼女が居て絶対に身体のどっかが触れ合ってる。
...あ、別に触りたいとかじゃなくて！
...触りたいのかな？俺、チカンみたいじゃん。
違う違う、そうじゃなくて。

電車が揺れて身体がドンってぶつかったりしたら、その時だけ、「ごめんなさい」「いえいえ」なんてほんのちょっとだけ会話ができるから。

朝、「おはよう」って挨拶しよう！っていっつも思ってんのに

その時になると、緊張して言えない。
緊張してるから、挙動不審になってない！？って急に不安になって、気持ち悪がられたらマズイからスマホを弄って何の興味の無い振りなんかもしてみたり。

喋ってみたい。
...でも、喋れない。
今日こそ喋る！
...でも、喋れない。

その繰り返し。

ちょっと暑くなって来た頃。

ブレザーを脱いで俺はシャツになったけど、彼女は長袖のセーラー服のまま。
暑そうだな...って思ったら、彼女のこめかみにツーっと汗が流れた。

そのまま相変わらずの電車に乗り込んで。
汗だくのオッチャン達に潰されるとゆー、夏特有の地獄。
彼女は、俺の隣でしんどそう。

俯いた彼女が「ハァ...」って、大きく息を吐き出した。

「...大丈夫...？」
「え...？」

顔を上げた彼女と目が合う。
三秒。

でも電車が、俺の高校がある駅に着いてしまった。
何も言えないまま、電車を降りる。

体調悪かったのかな...
あ、もしかしてチカンに遭ってたとか！？
助けてたら、少女漫画みたいに恋が始まってたんじゃないの！？
キャー！カッコイイ！っつって！

......って、そんなコト考えてる俺がやっぱりチカンみたいで凹む。

それが、一ヶ月前のコト。