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家はまた頭の中に現れる謎の声によって辿り着くことができた。流石に野宿はキツかったから良かったけれど、そんな思いも家の中に入った途端消え去った。というより全ての感情が消え去った。
そこは今まで両親と住んでいた家となにも変わりなかった。
少し大きめのマンションの4階、3号室。そこが私達の家。玄関から中に入れば真っ直ぐ伸びた廊下があって、左を見れば部屋が4つ並んでいた。
少し歩いて右を見ればトイレとお風呂場と洗面所。洗面所の壁を隔てた先にキッチンがあって、そこでよく私と母は料理やらお菓子作りをしていた。
キッチンから見えるのはテレビか本か新聞を見ている父の姿。私も隣に座って本を読んでいたっけ。本が好きなのは、父の影響だ。いつも朗らかな父が眉根を寄せて真剣に、時には楽しそうにニコニコしながら本を読むから、少し気になって本の世界に入ったんだよ。
まるで幻覚が見えるみたいに容易に一緒に住んでいた時のことが思い出されるけれど、両親の部屋に入ってもそこは元々いなかったかのように、物が何も無いから。だから慌てて頬をつねっても非情にこれは現実だと痛みで知らしめてくる。ああ、帰りたい。でも帰れない。
駄々をこねたくなってもそれを笑って許してくれる人はどこにもいない。一緒に笑い合って、あの時はこんなことがあったねって昔のことを思い出して話してくれる人もどこにもいない。
トリップなんてしたくなかった。命なんて、落としたくなかった。
その日は、沈むように眠りについた。その最中、縋るように握っていたネックレスだけが私の頼りだった。
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作者名：小春 葵結 | 作成日時：2021年4月20日 17時
