34*F ページ34
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家でぼーっとしていても、どうにもならない事ばかり考えてしまって、埒が明かないと早めに迎えに来てもらって仕事に取り組んだ。
こんな日に限って巻きで終わって、自宅で1人、何をする訳でもなくソファに腰掛けて居ると、来客を知らせるチャイムが鳴った。
重たい腰を上げてモニターを見ると、荷物の配達の様でよく分からないながらも通すと、差出人の元には、北山の名前が示されていた。
ほんとは今日、北山の家…本当は2人で住むはずはだったあの家に行こうと思ったけど、こないだもここの荷物を全部持ち帰るためだったんじゃないか、そう思うと怖くてとても向かうことなんて出来なかった。
だから届いた荷物を見ても、思ったよりショックを受けなくて、今見るべきだ、そう感じて封を開けた。
1番上に乗せられていた手紙を一旦取りだし、中を見ると、北山の家に置いてあった部屋着や私服、お気に入りだった香水に2人で付けていたアクセサリー。
俺の元で日の目を見なくなってしまった揃いのリングは、北山の胸元でいつも揺れていたな、なんて思い出したんだ。
一つ一つ取り出して、最後に厳重に包まれた箱を開けると、中から出てきたのは見覚えのあるワインで、俺の20歳の誕生日に北山がプレゼントしてくれた年代物の一品だった。
デビューして10年経ったら2人で飲もうなんて約束して、
「北山が俺のそばに居てくれたら、間違いなく2人で空けられるね」
「はいはい、藤ヶ谷こそね」
なんてやり取りをしたことが鮮明に思い起こされ、結局約束を破ってしまった自分にどうしようもなくムカついた。
あれだけ分かりきっていると思っていた北山のことが、いつからか分からないことの方が多くなってしまっていた事実に、そんな権利ないのに胸が苦しくて、苦しくて仕方なかった。
最後に手紙を見ると、よく見慣れた北山の字でただ一言、『弱くてごめん、幸せになって』そう書かれていた。
違う、北山は弱くなんてないんだよ。
弱くて、狡くて、逃げたのは俺なんだ。
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作者名:mr | 作成日時:2021年5月25日 18時