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翌日、半休をもらい午後から俺の抜けた後に部署に入る派遣の子と挨拶だけし、久しぶりに姿を出した藤ヶ谷ん家の合鍵片手に、いつぶりかも分からない家へと向かう。
藤ヶ谷は今日1日撮影だと、事前に宮田から聞いており、余程のことがない限り帰ってこないだろうと思って訪ねたわけだけど、家主がいない家に入るのに緊張していた。
昔は、それこそ自分家かのように訪れ、過ごしていたのにな、なんて考えては苦笑いがこぼれる。
今の家に引っ越す時に、藤ヶ谷ん家に置いてあった俺の荷物も粗方運んでいたから、置いてある荷物はほとんどないんだろうけど、残っている荷物を運びだそうとやってきた。
玄関を開け、リビングに入ると、色濃く香る藤ヶ谷の香りと、見覚えのないインテリアの数々。
俺が知らない間に、アイツはすっかり変わっていて、俺の存在なんてどこにも感じられなかった。
とりあえず寝室に向かい、クローゼットを開けると、撮影や会議の時に藤ヶ谷が来ている服に混じり、端の方にかかっている俺の服を見つけた。
とりあえず捨てられてなくて良かったと思い、手をかけると、
「何してんの?」
と、いるはずのない人の冷たい声が聞こえ、恐る恐る後ろを振り返る。
「何してんの、って聞いてんだけど。」
「あ、いや…。」
「え、何?答えられないことでもするつもり?」
そう言ってバカにしたように笑う姿に、さすがに我慢できず
「そんなくだらねぇ事しねぇよ。挨拶行くのに着てたスーツ、クリーニングに出して帰ってきてねぇからスーツ取りに来ただけ。大した用じゃねぇよ。邪魔してごめんな。」
そう一気に嘘をまくし立て、今日はひとまず帰ろうと、部屋の入口に経つ藤ヶ谷の横を通り過ぎようとした。
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作者名:mr | 作成日時:2021年5月25日 18時