69話 ページ39
組合が探偵社にやってきて、社長と対談した日の晩。
敦は、忘れ物をしたことを思い出して、探偵社へ戻っていた。時刻はもう9時過ぎ。誰かが残っているかどうか怪しい時間だ。もしも誰も残っていなければ中に入ることはできないだろうから、諦めて帰ろうとも思う。同棲を始めた鏡花にはやめておけと止められたが、できれば本日取りに行けるのが望ましいものだった。それは、太宰が渡してきた、組合の情報についてだからだ。今日彼らがこの探偵社にやってきたのなら、明日以降何か起こっても不思議ではない。少しでも、相手の情報は知っておきたかった。
誰かいますように、と祈りながら四階へ行くと、残念なことに電気はついていなかった。ダメだったか、と社の扉を回すも、やはり鍵がかかっている。この時間にはもう閉まるのか、と敦は記憶する。まだ入って一週間も経っていない。覚えることは沢山ある。まあ、鏡花と共に覚えていけばいい。さあ帰るか、と敦が踵を返す。――と。
極々小さな音が、上から聞こえた気がした。上からということは、屋上からということになる。風だろうか。いや、もしかすると、組合の誰かが侵入してきた可能性も。敦はそう思い、屋上へと繋がる扉へ手をかける。
「開いた……」
ここはいつも鍵がかかっていたはずだ。ということは、上に誰かいる。
誰かに連絡を入れた方がいいのだろうか。でも、生憎連絡できるようなものは社員寮に置いてきてしまった。仕方なく、敦は気を引き締めて、ゆっくりと階段を登り始める。片腕を獣へと変えながら。
＊ ＊ ＊
屋上に着いたとき、そこにいたのはAだった。柵の向こう側に腰をかけ、片手に透明な瓶を持っている。Aはここ二日間、政府に呼び出されたとかで社には出勤していなかった。そんな彼女が、何故ここに。
「あれ、いつからいたの？」
彼女の方も気づいたようで、こちらを振り返りつつ、瓶を揺らして明るく笑った。琥珀色の、綺麗な水。……いや、あれはおそらく酒だろう。色々言いたいことはあった。危ないよ、とか。酒は飲めない歳なんじゃ、とか。けれど結局、頭を下げるにとどめた。
「ああ、これ。気になる？」
「ええと、うん」視線でばれてしまったらしい。
「ウイスキーだよ。スコッチウイスキー。飲む？」
「や、僕はまだ飲めない……」
「あ、そっか。法律があったね」
彼女はそう言うと苦笑した。飲めないのは自分も同じだろうに、いかにも慣れた風に瓶を呷った。
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麗(プロフ) - 続きを楽しみにしてます！！ (2021年5月22日 17時) (
レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
りか（かりんとう）(プロフ) - わー！！！！！更新されている……めちゃめちゃ嬉しい、、、、、これからも応援しています！！！ (2020年4月30日 22時) (レス) id: f31ecb66db (このIDを非表示/違反報告)
こよひ(プロフ) - りか（かりんとう）さん» 遅くなってしまって申し訳ありません。お読みいただき本当にありがとうございます。私事なのですが、来年受験のためしばらく更新をするのは厳しいかもしれません。気長にお待ちいただければ幸いです。 (2020年1月21日 15時) (レス) id: 38c890fd29 (このIDを非表示/違反報告)
りか（かりんとう）(プロフ) - とても面白いです！！続きがとても楽しみです。更新まってます……！！ (2020年1月2日 23時) (レス) id: f31ecb66db (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こよひ | 作成日時：2019年5月2日 23時
