4 ページ4
彼女は、腰かけていた樹木を見上げる。
その横顔は、レイコさんと過ごした時間を思い出しているようで、とても儚げに微笑んでいた。
「――レイコとはまさにここで出会ったの。
ここに来ればまた会えるかも、なんて思ってたんだけどね。
友人と呼んでいいのか分からないけど、私もレイコも妖を見ることができたから、昔はレイコと一緒にいることが多かった。
今思えば、惹かれあったのかもしれない。
あるいは見える人が珍しくて、お互いに淋しさを紛らわせていたのかもしれない。
レイコが困っている時、悩んでいる時、怪我をしている時、ずっと傍にいたよ。」
そして、「――でも、もう逝ってしまったんだね……」と、名残惜しいように呟いた。
それはもう友人って呼ぶんだ、Aさん。
でも、そういうところが少しレイコさんに似ている気がして、笑みが浮かんだ。
レイコさんは独りじゃなかった。
Aさんという友人がいた。
その事実が自分のことのように嬉しかった。
「夏目様〜、ご無事ですかー?」
中級たちの声が聞こえてくる。
声がする方を見ると、先生と中級たちがこちらに走る姿があった。
ということは、結界が消えたのか。
「どうやら帰りが遅いから心配してたみたいね。」
「良い友人を持ったね、夏目」とAは付け加えた。
「無事だったか。」
先生は友人帳がまだ俺の鞄にあるのを確認すると、Aに鋭い視線を向けた。
「先程の結界に、この有り余る妖力……。
覚えがあると思えば、やはりお前だったか。」
斑の言葉に、Aは何も反応を示さず、ただ静かに斑を凝視している。
中級が「あの人間をご存じで?」と疑問を投げるが、先生は「まあな」と答えるだけで、あまり話したくないようだった。
Aが森の奥へ視線を向けると、眉をひそめて、一瞬だけ険しい表情になった。
そして、肩に弓矢をかけると、夏目に微笑む。
「会ったばかりで申し訳ないけど、用事を思い出したからもう行くわ。
レイコが遺した“それ”は大切にするんだよ。」
その時、ようやく夏目はAが友人帳の存在を知っていることに気付く。
夏目はAを引き留めようと名前を呼ぶが、そこにはもう姿はなく、Aが先程視線を向けた先へ風のように消えてしまっていた。
そして、Aが立っていた場所を見ると、お札が一枚残されていた。
50人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
moeka(プロフ) - 続きの更新がなくて寂しいです。更新して下さると嬉しく思います。待ってます。 (2022年3月10日 14時) (レス) id: e6820645c8 (このIDを非表示/違反報告)
[アイク・ブルームーン]アイおっとり(プロフ) - 面白いです!更新待ってます! (2021年9月2日 23時) (レス) id: 466201e21a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:神楽 | 作成日時:2020年9月21日 10時