パパが治してあげようね *ARS* 9 (ページ11)

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急病人　11　(和) ページ11

翔Side

翔「か、かず…いったん休憩した方がいいんじゃない?」

順調に進んでいたかと思いきや
迫ってくる針を見たとたんポロポロと泣きだしたひなちゃん。

腕も引こうとしてるし呼吸も速くなってきたから
中断した方がいいんじゃないかと思うんだけど、
和は手を止めるつもりは全くないようで。

和「このあたりならいけるかな～。
よし、じゃあ一番痛くないところにしようね」

腕の血管を指で慎重に触っている和から
ゆったりとした声が聞こえてきた。

和「和先生上手だから、任せといて。ね?」

声に反応して、今までぎゅっとつぶっていた目を開け
和に視線を移したひなちゃん。

涙のいっぱい溜まった目で不安そうに見つめるひなちゃんに
和が自信満々の顔で頷いている。

いつもながら声の出し方や言葉の届け方がうまい。

こうして安心感を与えられるのは、和の大きな武器だろうな。

和「はい、じゃあちょっとだけ我慢ね。
よいしょっと…ん、入った入った。
よし、完璧!! 和先生うま～い」

まじで一発で入れたのか。

ひなちゃんはもともと血管が見えづらいらしく
昔から針刺しを失敗されることも多かったとか。

しかも今回は脱水も重なっていて、
命中させるのはかなり難しかったはず。

それでも和は弱気な態度は全く見せずに
むしろニコニコ笑って余裕ありげな表情。

普段もっと細い血管に針刺してるんだもんな。
失敗しないっていう自信があったのか。

和「はい、ティッシュどうぞ。涙拭いて?
だんだんお薬効いてくるからね。
少し時間がかかるから、ちょっと寝ようか」

『あの…』

和「うん?」

『ご、ごめ…なさい……がと…ざいました…』

和「ふふっ。はい。おやすみ」

「泣いちゃってごめんなさい
上手に打ってくれてありがとう」
そう言いたかったのかな。

和にはちゃんと伝わってるみたいだけど。

安心したように目を閉じたひなちゃんは
あっという間に夢の中。

静かになった診察室で
和は大きく息を吐き出しながら、イスに腰掛けた。

翔「さっきの針刺し、お見事だったよ。
余裕ありそうだったもんな」

和「え? そう?」

翔「自信あったんでしょ?」

和「自信なんてなかったよ。一か八かだと思ってたから。
失敗したらどうしようって、心臓バクバクだった(笑)」

え、そうなの?
そんな感じしなかったけどな。

俺なら笑顔を見せることすらできなかったかもしれないし。

うちで一番の針刺し名人は和かもな。