パパが治してあげようね *ARS* 7 (ページ17)

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松岡先生のお説教　5　(翔) ページ17

翔Side

早く医局に戻らなくてはと思っても、
一度しゃがみこんでしまうと、もう動けない。

激しい咳と異様な呼吸音が響く廊下には、
多くの看護師が集まってきていた。

大丈夫ですか? という声に混ざって聞こえた、
聞き慣れた声。

それが松岡先生だと気付くまでに、
それほど時間はかからなかった。

松「翔、翔!! 大丈夫か?」

翔「げほげほっ、ぁぁっ…ハァハァ…げほげほっ!!」

松「発作か? 薬は。どこにある?」

松岡先生に問いかけられても、
絶え間なく出続ける咳のせいで声が出ない。

だんだん意識が薄れていくのを感じながら、
俺は無意識に抱き起してくれていた
松岡先生の白衣を掴んでいた。

松「車いす用意して。
それから、呼吸器の樋口にコールしてくれ。
あいつなら今の時間は病棟にいるはずだ。
翔? 俺の声聞こえてるな? 手握ってみ?」

目をつぶっている俺の耳に入ってくる松岡先生の声。

言われたとおり、力のはいらない手で
大きくて骨ばった手をぎゅっと握った。

松「よし、意識はあるな。
大丈夫だ。これだけ医者に囲まれてりゃ、
死にはしねぇよ。安心しな」

いつの間にか苦しさから涙が出ていたのか、
温かい指で目元をなぞられた。

看「先生、車イスどうしますか?」

松「あぁ……俺が背負っていくわ。
わざわざ用意させといて悪いね」

力の抜けた俺を
車いすに乗せるのは無理だと判断したのか、
俺はされるがままに先生の背中に乗せられる。

診察室に到着し
ベッドに寝かされたところまであった記憶は、
松岡先生の頑張れよ…の声と同時に途切れた。

それからは何があったのか
どれくらいの時間がたったのか
俺にはわからない。

ただ、次に目を覚ました時に聞こえたのは
松岡先生と智にぃの声で、
ぼやける視界でどうにかその顔をとらえようと
必死で目を動かした。

智「ボーっとしてるね。
目、閉じてていいよ」

松「まだ寝てなさい。
どうせしばらくは入院だからな」

入院…そうか…
そうだよな……

俺、智にぃとの約束、破っちゃったもんな…

智「じゃあ僕そろそろ戻らないといけないので。
翔のこと、よろしくお願いします」

松「はいはい。何かあったら、連絡入れとくから」

えっ…待ってよ……
智にぃ、帰っちゃうの?

消えていく気配に、一気に寂しさが湧き上がる。

それでも今は眠気の方が勝っているようで、
目を閉じるとあっという間に眠りに引きずり込まれていった。