食べたくない 14 (雅) ページ49
智Side
結「あーーん!!」
雅「えっ・・え・・」
ゆいちゃんは、
雅紀がご飯を食べられないことを知らない。
翔に食べさせてやれと言われたわけではないし、
僕らの思いを知るわけでもない。
ただ、雅紀に食べてほしいだけ。
自分があーんしたゼリーを、
あの日みたいに美味しいねって、
笑って食べてほしいだけなんだよね。
でも、だからこそ意味がある。
ゆいちゃんの優しさが、
きっと、雅紀の心を動かしてくれるから。
結「ましゃ・・たべなーの?」
雅「ん、まって・・・たべるから。
・・・たべるよ・・・たべる・・・」
下を向いて、息を大きく吐き出した雅紀。
覚悟したように小さく口を開けてはくれたけど、
その口は震えている。
本当なら、無理しなくていいよって
言ってあげるところなんだろうけど、
僕らはただ黙って2人を見つめていた。
雅紀も、今頑張ってくれているから。
雅「んっ・・っく・・・」
ゆいちゃんの手で、口に入れられた少量のゼリー。
その瞬間、雅紀が小さくえずいて、
慌てて背中に伸ばそうとした手を、逆の手で押さえこんだ。
まさき、吐き出してない。
ゆっくりだけど、もぐもぐと口が動いていた。
あとは、飲み込めれば・・・
翔「・・・・いける。」
そう、翔が小さくつぶやいたとき・・・
.
雅「・・・た。」
下を向いていた雅紀の顔がゆっくりと上がった。
その顔は泣いていて、でも、笑っていて・・・
雅「た・・れた・・・
たべれた・・食べれた!!」
翔「やった・・やったぞ・・」
雅「食べれたよ、翔にぃ!!」
翔「あぁ。よかった・・・よくやった!!」
結「ましゃ、たいたいなの?」
雅「んーん。違うよ。
ゼリーが美味しくてね、涙がでてきちゃったの。
ありがとね、ゆいちゃん。ありがと・・・」
ぎゅーっとゆいちゃんに抱きついた雅紀。
その顔は本当に嬉しそうだ。
今日までずっと、頑張ってくれてたもんね。
これでようやく、
退院に向けての第一歩が踏み出せた。
翔「よかったよ・・まさき・・・」
今回は、翔がいなければ乗り越えられなかったから。
僕一人じゃ、
こんなに早く雅紀の笑顔を見ることはできなかった。
智「しょお。」
名前を呼ぶと、振り返った翔は微笑んでくれて・・・
“ありがとう”
“こちらこそ、ありがとう”
お互いに無言で差し出した手を、
僕らは痛いほど強く握りあった。
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作者名：ちさ
| 作成日時：2013年3月23日 18時
