極細の凶器 16 (雅) ページ16
翔Side
翔「これは…やはり魚骨ですか」
午後になり仕事が一段落した頃。
切除された腸の一部と、そこに刺さっていた異物の確認をすることができた。
翔「鮭…ではないか、なんだろう…」
松「…鯖か？…いや……あぁ」
翔「え？」
やや湾曲し先の尖った３cm程の硬い骨。
腕を組んで凝視していた先生が、いきなり天井を仰ぎながら溜息をつくようにつぶやいた。
「鯛めし」って、何のことかと思ったけど…
そういえば数日前、松岡先生の家でそれをご馳走になったと言っていた。
松「すまん、たぶんそれだな。
…ッチ…そうか…」
苦い顔をして舌を鳴らした先生は、きっと『これは自分のせいだ』と思い悔いている。
でもそんなことはあるわけなくて。
逆にどんな理由で先生を責めたらいいのか…
隅々まで探しても理由なんて一つも見つからないくらい、この件に関して責任を負うべき人なんていないと思っている。
雅「せんせ…の、せい、じゃ…」
松「小春がぶつかったときにメシ丸呑みにしてたな？その中に入っていたのかもしれないだろ。
飯に誘ったのも俺だしさ…
ごめんな、辛い思いをさせたな」
麻酔から覚めた雅紀は、俺と同じように『先生に責任はない』と言って首を振る。
どの段階で骨が体内に入ったのか、それはもう今となっては確かめる術はないんだ。
松「よく頑張ったな。傷も臍の上にちょっとあるだけだから。すぐに塞がるよ」
雅「…せん、せ…」
松「うん？」
先生の声がわずかに落ちていることに気づいたのか、術後で疲れているはずの雅紀が悪い顔でニヤリと笑う。
雅「おれに…嘘、つきました…よね…？」
松「嘘？なんのことだ？」
雅「ちりょ…して、ないで、しょ…」
何のことかと思えば、『今朝、歯の治療の続きをしないでここに来たでしょう』ということを言っているらしい。
先生は誤魔化そうとするけど、『そんな時間はなかったはずだ』と。
痛みが消えて冷静になって、そのことに気づいたんだとか。
松「ふっ。
はぁ…まいったよ。まいりました」
追い込まれて降参した先生の表情は緩み、雅紀の顔にも笑みが浮かぶ。
こんなふうに押しこまれる先生を見るのは初めてだ。
雅「…がんばり…ましょ、ね…？
俺も、がんばっ、た…」
松「そうだな、頑張るよ。自分の歯を失いたくはないからな」
小指を絡ませながら、二人の目が静かに細められる。
先生も雅紀も、早く良くなって。
正月には美味しい料理、みんなで食べましょうね。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2022人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ちさ(プロフ) - 光さん» 最近お話が書けず落ち込んでいたので…光さんの温かいお言葉に泣いてしまいそうです…。そうですね、もう長いこと暗い話題ばかり。きっと自覚している以上に身体も心も疲れてしまっていると思います。光さんにも少しでも気が休まる瞬間があれば…と願っています (2020年4月3日 22時) (
レス) id: 4da98155f9 (このIDを非表示/違反報告)
光(プロフ) - 気持ちが滅入るニュースばかり、自分が感染していないか、人に感染していないか、そんな緊張感で気持ちも頭も限界なのに、ストレス解消する方法もない。そんな世の中になってしまいましたね。ゆっくりしてください。いつまでも待っています。先が見えず辛いですね・・。 (2020年4月3日 22時) (レス) id: 6f1bc6d6bd (このIDを非表示/違反報告)
ちさ(プロフ) - フェレットさん» こんばんは、フェレットさん！今回も読んでいただきありがとうございました。妹ちゃんもようやく大きな悩みから解放されてホッとしたと思います。長いこと時間がかかりましたからね…妹ちゃんもお兄ちゃんも、お疲れさまという気持ちです (2020年2月29日 21時) (レス) id: e50f5e6951 (このIDを非表示/違反報告)
フェレット(プロフ) - 更新お疲れ様です！今回もお兄ちゃん達の優しさが沁みました、最高でした (2020年2月28日 6時) (レス) id: 88923771a6 (このIDを非表示/違反報告)
ちさ(プロフ) - すーたんさん» お久しぶりです、すーたんさん！今回も読んで頂きありがとうございます。そ、そんな…一度押すだけだって手間なのに…嬉しい…すごく嬉しいです。そんなふうに思って頂けているだけで本当に幸せですし、本当に感謝しています。ぜひ、これからもよろしくお願いいたします (2020年1月16日 22時) (レス) id: f864660af2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ちさ
| 作成日時：2019年12月7日 22時
