パパが治してあげようね *ARS* 12 (ページ20)

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ガラガラ声　8　(和) ページ20

智Side

昨日約束した通り、仕事終わりに和のお迎え。

「え? 今日だったっけ? 忘れちゃった～。てへっ」
なんてことがないとは言い切れないから、念のため小児科のナースにお願いしておいた。

「もしかしたら忘れて帰っちゃうかもしれないので、仕事が終わったら教えてあげてください」って。

和も聞いていたから、これで逃げるなんて考えはなくなったと思うよ。

「逃がさないように見張っておきます」ってニコッと笑った看護師さんに、和は苦笑いをしていたからね。

長いことここで働いてくれているベテランのナース。
小児科をまとめているのはこの人と言っても過言ではない。

彼女の監視から逃れるなんて不可能だからね(笑)

智「お疲れ様です～。あれ? 和は?」

手に持っていた聴診器を白衣ポケットに突っ込みながらスタッフルームに入ると、いるのはナースだけで和の姿が見当たらなかった。

僕のお迎えをドキドキビクビクしながら待ってるだろうなと思って、出来る限り刺激しないように聴診器も隠したし声も明るくしたというのに。

まさか帰っちゃったの?
と思ったその時。

なぜか例のベテランナースから、探していた人の声がした。
少し驚いたけど、すぐに状況を理解したよ。

智「んふ。あれぇ～帰っちゃったのかなぁ」

わざとらしく言ったその言葉の後にも、「いないって言って」ってささやき声が聞こえてきている。

ちょっとはみ出しているとはいえ、女性の後ろにスッポリと隠れてしまう和の小柄さには驚きだ。

智「いつまで隠れてるの? 出ておいでよ」

「もうバレてますよ」ってナースの言葉に、そろそろと顔をだした和を見て笑いそうになる。
機嫌を損ねるかもしれないから、必死に堪えたけどね。

智「ちゃんと忘れずに待っててくれたんだね。
翔もあと5分くらいで着くってよ?」

和「俺…なんか気持ち悪い…」

智「気持ち悪い? 具合悪いの?」

和「…から、今日は…ちょっと…」

もう、本当にあきらめが悪いんだから。

だったらなおさら家には帰れないじゃない。
ここは病院なんだから、「気持ち悪いのなら診てあげようか?」ってなるでしょう(笑)

智「ほら、行こう?」

和「ん…」

差し出した手を、思いのほか早くに握ってくれたのは看護師さんのおかげ。

「いってらっしゃい?」って、優しく笑うところはさすが小児科のナースっていうか…
なんか、お母さんみたいな感じ。

歳はそれほど離れてはいないけど、和はこの人に全幅の信頼を寄せてるからね。