さよなら ページ19
しょーくんと私は
太陽と月。
光の世界とそれを支える陰の世界。
私は光の世界には一生行かれない。
部屋の灯りも付けずに窓の外を見ていた。
ふと机の上に灯りがともる。
携帯が着信を知らせている。
ディスプレイには
『櫻井 翔』
昨日はどきどきしながら取った。
今はもうその感情はない。
「はい。」
「…あ、Aさん？
お疲れ様です。
櫻井です。」
「お疲れ様です。
どうしたの？」
「…うん…あのさ…。」
「…。」
「…あの…
今度話した…」
「あのね。私。」
しょーくんの言葉を遮った。
「しばらく仕事でイタリアに行くの。」
「え…？
しばらくってどれくらい？」
「短くて3年。
でもそのまま残るかもしれない。」
「…まじで？」
「うん。そう。」
沈黙になる。
「あ…そっか。そっか。
すっげーじゃん。
さすがだな。
うん。すげーよ。
さすがAさん。
頑張ってね。」
「ありがとう。
これから忙しくなるから
ご飯は難しくなっちゃう。
ごめんね。」
「ううん。
大丈夫だよ。
イタリア人に実力見せてやれよ。」
ふははっ
いつもの豪快な笑い声が聞こえた。
「ありがとう。
しょーくんもこれからも駆け抜けて行ってね。
トップでいてね。」
「俺らはまだまだ上に行くよ。」
「さすが。
イタリアから応援してるから。」
「俺も日本からAさんを応援してるから。」
…さようなら
終話ボタンを押すと部屋に灯りがともる。
「それほんと？
A?」
「…智。」
部屋の入り口に腕組みをして壁に寄りかかったまま下を向いてる。
「いつからだよ？」
「来年の春。」
「…Aが選んだんなら応援するけど…。」
「…けど？」
ゆらりと寄りかかっていた体を起こして
私の目の前に立つ。
「寂しい…。」
口を尖らせて呟く。
「ありがと。
頑張って来るね。」
少し背の高い智の頭をぽんぽんする。
「もうすぐ誕生日だね。
何が欲しい？」
「Aの1日をちょーだい。
一緒にどっか出かけて買い物したり…
ご飯食べたりしたい。」
「そんなのでいいの？
何か欲しい物ないの？」
「形のあるものはもういらない。
だってそれは
Aだけが起こせる奇跡だから。」
「え？」
「んーん。
なんでもない。
約束ね。」
「うん。
わかった。」
目を見て返事をすると
やっぱり悔しいくらい綺麗に智は笑う。
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作者名：ことら | 作成日時：2017年12月13日 14時
