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大貴のことを考えている余裕もないくらい
ただ走っていた
どこにいるのかも検討はつかない…
運動をしていない体はもう限界で
息も荒くなっていく
「…もう、どこにいるの…」
オレンジ色に染まった空を見上げて
海の家に戻ろうとした時…
前にトボトボと歩いている人がいた
それが誰なのかなんてすぐにわかって
もう限界なはずの体を動かした
「けっ、慧くんっ」
私の声にびくっと反応してこちらを向いた彼
いつもみたいに笑ってるつもりなんだろうけど
全然笑えてない
伊野尾「…あれ？A…どーしたの？」
「どーしたのじゃないじゃん！
だっ、だって…慧くん…昨日…」
伊野尾「あー。あれ見ちゃった？」
首を縦に動かす
そっかそっかと言ってまた作り笑いをする慧くん
伊野尾「Aは大ちゃんと付き合ってるんだろ？
俺になんか構うなよ」
「…で、でも…」
伊野尾「…なに？同情でもするつもり？
そういうのうざいんだけど」
そう言って彼は唇を噛みながらこっちを向いた
冷たい視線から出てくる言葉も冷たくて
伊野尾「…いいんだよ。ほっとけよ
所詮俺なんてそういう存在なんだよ
お前は大ちゃんのとこ行けよ
なんで、俺のところきたんだよ…」
「だって…心配だった…から」
伊野尾「…じゃあお前が穴埋めでもしてくれるのかよっ！
俺の気持ちなんて知らねーくせに」
そう言って私の方に向かってきた
荒々しく抱きしめられ
そしてキスをしてきた
どんどん深くなっていくキスに耐えられず
気づいた時には涙が頬を伝った
伊野尾「…あっ、ご…めん」
どうして私の涙は流れたのだろう
大貴への罪悪感？
それともこの気持ちが言えないから？
伊野尾「…頼むから…大ちゃんと幸せになって…」
そう言って彼は歩き出した
私はその背中を見ていることしかできず
唇にあなたの熱を持ったまま
その場で立ち尽くしていた
大学2年の夏
慧と出会った
好きだと気づいた時にはもう遅かったね
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作者名：藍 | 作成日時：2017年5月12日 13時
