標的113 ページ20
＊
「──報告します。現在、当機周辺に適性反応は無し。機体のカモフラージュ対策も万全です」
「うむ、順調だな。引き続き頼んだぞ」
は、と短い返事を残し、やがてコックピットの扉が閉まる。
私は小さく息をもらし、冷たい窓ガラスへ頭を預けた。
──イタリアを発って、はや数時間。
密かな空の旅は、今のところ予定通りに進んでいる。
いつもの乗り物酔いも大丈夫だ。
マーモンの遺してくれた酔い止めが効いているらしい。
……このまま、無事に日本へたどり着いてくれよ。
外に広がるのは、闇。
海と空との境界もなく、見えるのは薄暗く反射した自分の顔だけ。
代り映えのない風景に、私は窓のシェードを下ろした。
「それにしても、災難だったな」
ふいに、通路を挟んだ向こうから声がする。
客室にいるのは、私と了平のふたりのみ。
私は重たい首を持ち上げ、反対側へと視線を投げた。
「10年前というと、確か……」
「リング争奪戦が終わった辺り、ですね」
「おお、そうだったな！そうか、あれから……もう10年か」
懐かしむような声色で どこか遠くを見つめる了平。
きっとこの10年、様々なことがあったのだろう。
彼の横顔と──この現状を見れば、それは痛いほどに伝わってくる。
「オレは基本忘れっぽいが、当時のことはよく覚えているぞ。うむ、お前が寝返った時のことなんかは、特にな」
「う……あの、それは本当に……すみませんでした……」
痛いところをストレートに打ち抜かれ、途端に萎んでいく声。
いたたまれず顔を伏せる私を、了平は豪快に笑い飛ばした。
「ハハハ、冗談だ冗談！この10年間、お前のおかげでやってこれたと言っても過言ではないのだ」
それに、と了平。
「オレはあの時、リングの内側から見ていたぞ。お前が、ルッスーリアを──決して傷つけまいとしていたことを」
「……っ、」
思わずとなりを凝視すれば、静かな──それでいて、力強い視線がぶつかる。
「オレは、難しいことは分からん。だが、お前は昔からそういう奴だ」
何事にも全力投球で、裏表のない言葉。
それは──あまりに、眩しすぎた。
「……買い被りすぎです」
「そうかもしれんな」
……やっぱり、苦手だ。
そんなこと大真面目に言えるの、きっとこの人だけだろうな……
よく分からぬ面映ゆさに、ぐ、と眉間を押さえる。
こう、真正面から来られるのが一番困る。本当に。
本心なのが余計に悪質で、私はひとり彼の恐ろしさを痛感するのだった。
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オウリ(プロフ) - こまりさん» ありがとうございます~！近いうちに続編公開するのでお待ちください！ (6月14日 12時) (
レス) id: df42654abf (このIDを非表示/違反報告)
こまり - 凄く面白いです！続きが気になります…🤔 (6月14日 5時) (レス) id: fd7a7e37b1 (このIDを非表示/違反報告)
七粍(プロフ) - きーち1さん» お返事遅くなりました…！コメントありがとうございます^^*おかわりどうぞ！！！(笑) (2022年3月27日 21時) (レス) id: d69433a459 (このIDを非表示/違反報告)
きーち1(プロフ) - 展開、設定めちゃくちゃ好きです！！ご馳走様です！！続き早く読みたいです！！おかわりください！！！！！ (2022年2月28日 6時) (レス) id: a03c85b354 (このIDを非表示/違反報告)
微々(プロフ) - フランとベルさん» ありがとうございます〜！！^^*私もサクサク更新できるように頑張ります…！ (2021年11月18日 11時) (レス) id: d69433a459 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：オウリ | 作成日時：2020年11月29日 23時
