標的138 ページ45
＊
「──ありがとうAくん。とっても助かるよ！」
「いいのいいの、こっちがやりたいって言ったんだから」
こちらを見上げる眩しい笑顔に、私もまたふやけた笑みを返す。
私が向かった先は、先ほど別れたばかりの京子とハルの元だった。
「でもいいんですか？Aさんだって忙しいんじゃ……」
「ふ、ほんとに気にしないで。今はちょうど手が空いてるところだったんだよ」
彼女たちを追いかけたのは他でもない。
野菜の収穫について行くためだ。
トレーニングの前に気分転換もいいだろう。
地下の畑なんて、ちょっと面白そうだし。
「そっか、なら良かった。本当はね、もう少し人手があったらいいよねって話してたの」
「はい、ここも賑やかになってきたので……その分、材料もたくさん必要なんです」
聞けば、ここでの主な家事は京子とハルらが受け持っているらしい。
……何も分からぬまま、こんな状況に巻き込まれたのに。
それでもみんなのために、こうして頑張ってくれてるんだ。
「あっ、でもでも！案外楽しいんですよ？ひとつ同じ屋根の下、ツナさんとこうして一緒に生活できるなんて……！」
「ふふ、確かにお泊まり会みたいだよね」
私の想いを知ってか知らずか、ふたりはより明るい声で笑った。
……こっちが気を遣わせてどうするんだ。
「ありがとう、本当に頼りになるよ。ふたりも何かあったら遠慮なく言ってね」
顔を上げた私に、京子とハルは大きく頷いた。
＊
「──そういえばAさん。さっきツナさんがどうとか聞こえましたけど……何かあったんですか？」
「え゛」
さらに地下へと向かうエレベーターの中。
唐突に口を開いたハルに、私はぎくりと肩を揺らした。
……どうやらぶつかったあの時、独り言を聞かれていたらしい。
思わず、あからさまに目を泳がせる。
が、彼女たちがそれを見逃すはずもなく。
「ああーっ！やっぱり何かあったんですね！？」
「もしかして……喧嘩？」
「いや、喧嘩ってわけじゃ……」
なんでちょっと興味津々なんだ。
なんとか会話を逸らそうにも、あいにくここは狭いエレベーターの中。
両側から詰め寄る視線を、逃れる術はなかった。
……仕方ない。
やけにゆっくりと感じられる降下速度に、観念の息を吐く。
ふたりの視線に目を伏せたまま、私は小さく口を開いた。
「…………実は──」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 422人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
オウリ(プロフ) - こまりさん» ありがとうございます~！近いうちに続編公開するのでお待ちください！ (6月14日 12時) (
レス) id: df42654abf (このIDを非表示/違反報告)
こまり - 凄く面白いです！続きが気になります…🤔 (6月14日 5時) (レス) id: fd7a7e37b1 (このIDを非表示/違反報告)
七粍(プロフ) - きーち1さん» お返事遅くなりました…！コメントありがとうございます^^*おかわりどうぞ！！！(笑) (2022年3月27日 21時) (レス) id: d69433a459 (このIDを非表示/違反報告)
きーち1(プロフ) - 展開、設定めちゃくちゃ好きです！！ご馳走様です！！続き早く読みたいです！！おかわりください！！！！！ (2022年2月28日 6時) (レス) id: a03c85b354 (このIDを非表示/違反報告)
微々(プロフ) - フランとベルさん» ありがとうございます〜！！^^*私もサクサク更新できるように頑張ります…！ (2021年11月18日 11時) (レス) id: d69433a459 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：オウリ | 作成日時：2020年11月29日 23時
