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「アツイすか。音楽はね、父親が色々聞いてたからその影響で私も聴いてたんだよ色々」
ビールをぐびぐび飲む。
少し寒かった室内も、暖房とお酒と楽しさであったまってきた。
「へえ、いい家庭だ」
「そう、いい家庭。で、私には音楽の道に進んで欲しかったみたいでさ」
「それでギター？」
「うん。実際ギター好きだし、練習も苦痛じゃなかったんだけど、私好きなことが多くてさ。音楽とか映画とか、本とか漫画とか、景色とか色々」
「全部じゃん」
「うん、運動以外全部。」
「あっはは、確かにAは運動無理そう。俺と同じ」
「矢花の方がまだできるよ…」
「お前なめんなよ俺の運動音痴っぷり…で？なんで絵の方に行ったのよ」
「…全部私の物にしたかったんだよ、好きなものを」
理解しようと頑張ってるけど、分からないと言いたげな矢花の顔。
「つまり、好きなものを、キャンバスに描くのが一番好きだったの」
道に咲いてる綺麗な色の小さい花、夏の夕暮れ、死ぬほどリピートした音楽、映画のラストシーン、知らない街の知らない商店街、無人駅。
私の好きな物を全部、私のフィルターを通してキャンバスに描いて、それを眺めるのが好きだった。
「だから私絵を描くのが好きで……矢花？」
口を開けてマヌケヅラで私をぽけっと見ている。
こいつビール飲まないのかな、貰っていいかな。
「え、あ、ああ！そうなんだ、観てて分かる気がする、なんか楽しい感じが」
「どうだろうね〜？見てて楽しい絵はもっとあるからね。」
「…じゃあ好きな物しか描かないの？」
「うん、でもこの前辺りまで描いてたのはよくわかんない。迷子になってた。描きたいものが見つかんなくて焦って、ぐちゃぐちゃにしてしまった」
「そう、なんだ」
「でも！私は私の描きたい物を描くというポリシーがあるので！！」
うんうん、と頷きながら再確認する。
やっぱりじゃないと楽しくない。
矢花はしばらく何かを考えるように黙り込んで、
「…じゃあ、この前の俺の絵は？」
と言った。
「え？」
「いや、好きな物しか描かないって言ってるから…」
「好きだよ？」
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作者名：雪 | 作成日時：2022年9月24日 0時
