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光に反射している白い布が、Aさんの手によってスルスルと落ちていき、キャンバスが現れる。
はっきりとした絵の輪郭が見えて、俺は驚愕した。驚愕というとまた違う、停止した。空間が停止した。
確かに俺だった。
ベースを弾く、俺だった。
けれど、俺ではないようなと思えてくる。
色彩は複雑だった。
今の情熱がいつか消えてしまうことを示唆するようなぼんやりとした黒い色合いの背景が、俺はあの時の静寂に思えた。
絵を見上げて、周囲の音が何も聞こえなくなるような静寂。だけど絵の中の俺は構わずに弾いていた。今にも動き出しそうな俺と、音がそこには描かれていた。
窓から漏れる光が優しくキャンバスを照らしていて、乾いた絵の具がキラキラと反射して光る。
「……」
口から何も出ない。
感想を言おうにも、何を言っても駄目な気がして、引っかかったようになって言葉が出てこなかった。この人には俺がこんなふうに見えてたのか。
、あの時の空間が、絵に描きたいほど、ここまで嬉しそうに俺に見せたいほど、素敵な空間だったのかと思うと、何か涙が出てきそうだった。
「…矢花？」
Aさんの俺を呼ぶ声で、はっとした。
「矢花、泣いてるのか」
「へ、」
納得したように彼女は呟いた。
俺は泣いているのか。瞬きをすると、頬を垂れる暖かい感覚が流れた。
「…Aさんは、子供みたいだよな」
俺がボヤくと、慈愛に満ちたような顔が急に険しくなる。
「何を言うんだよ急に」
「綺麗です」
「…」
「ありがとうございます」
俺の単調な日々に、こんなにも素敵な色を付けてくれてありがとう。
そんな言葉恥ずかしくて言えないけれど、それでも伝われと思った。絵でこんなに心を揺さぶられたことは今まで無かった。
「私、矢花のその言葉の為に頑張ったよ」
「でもこれは私の為の絵だから。」
あまりにまっすぐで純粋な言葉と愛情表現に、魂が震えた。
クサイかもしれないけど、魂が震えたのだ。
その瞬間、また世界は静寂に包まれた。
〜
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作者名：雪 | 作成日時：2022年9月24日 0時
