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あれから私は、なんとなくの不安や焦りを抱えつつも制作に取り掛かることができた。
以前のような気持ち悪さはあまり感じない。
私は素直な自分の気持ちを絵に表そうと思った。いつも通りに。
下書きはあまりせずに、私は筆をひたすらキャンバスに走らせた。
あの静寂を表現したかったのだ。
演奏をやめた時の、さっきまでの楽器の音が幻だったかのような完璧な静寂。
緊張感が走り、不安に襲われ、今すぐもう一度楽器をかき鳴らしたくなる焦りが生まれる。
けれど、その静寂は必要なのだ。
なぜかは分からないけど、静寂はメロディーになる。
今だって静寂だけど、違う。
いろんな音が聞こえる。隣のアトリエから聞こえる微かなしゃべり声や
廊下のたまに聞こえる足音と話し声。窓から入ってくるささやかで冷たい風の音。
「…綺麗」
あの時の矢花が頭をよぎった。
綺麗な人だな。
描きたいなって。
高校3年の時、当時好きでたまらなかった音楽を絵にしたくて、試行錯誤して油彩画を描いた。
あの時の私の絵、好きだったな。
中途半端な完成度だったら、世界一嫌いな絵になっていただろうな。
私は目を閉じて、ベースの音を奏でる矢花を思い出した。
私が矢花を描いたら、矢花はどう反応するだろうか。自分が描かれた絵に対して、綺麗だと言ってくれるだろうか。
わくわくが腹の底から込み上げてきて、とても楽しくなった。
ああ、絵を描くのはこうだった。
好きなものを、好きなように表現して、誰かの反応を予想して、言葉を想像して。
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作者名：雪 | 作成日時：2022年9月24日 0時
