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Aほど自分や周囲に嘘がない人は、珍しい。
一度本人になんとなく聞いたら、「つけないしつく必要がない」とだけ返された。
「だからあんな絵を描けるんですかね…」
「それはそうだろうね、」
感じたことは正直に相手に伝えるし、機嫌が悪い時、良い時は直ぐ分かる。
それは子供のそれでは無くて、彼女の目が静かに語っている。
変に恰好つけることもなく、なりたい理想像もない。そんな生き方に、少し憧れを感じるけど、憧れは最も遠い存在だと、理解している。
「あいつリフレッシュできてた？」
「それは間違いないんじゃないかと」
「はは、よかったわ。安心した」
「嶺亜くんはいつからAさんのことあんなに気にかけてんすか？」
「んー、いつから…いつからだっけ忘れた」
嘘だ。
俺は明確に覚えている。
俺が2年に上がってから、つまりAが美術学部に入学してきて直ぐに描いた絵があった。
学校の講義をきちんと受けつつ、空きコマや自由な夜や早朝に彼女は絶対にアトリエにいた。
1年でそんな奴はいなかったからすぐにAAという名前は覚えた。というか広まった。
俺は絵以外にバンドもやってるから、コンクールに出展するまでの製作時間が限られており、その時間を無るやり作るために学校のアトリエに泊まったりしていた。
そこで会ったのだ。Aの絵に。
明かりのついたアトリエ、少し空いたドアから見えるキャンバスには、なんとも鮮やかな色彩とブレのない綺麗な線であふれていた。
きっと、この人は絵にとてつもない時間と愛情を費やしてきたんだと分かる。
そこで俺は話しかけたんだ。
「まあAは友達自分から作りに行くタイプでもないし、お前みたいな友達ができて精神衛生上いいと思うわ」
「精神衛生上！」
たぶんそれは矢花にとっても、そうだろう。
俺はギターを弾きながら、二人の会話を想像した。
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作者名：雪 | 作成日時：2022年9月24日 0時
