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「…じゃあ１回離れてみない？」
「…え？」
矢花は、どうかな、という顔で私を見ていた。
「ずっと絵に向かってたら、やっぱり好きなことでも疲れちゃうし、それに周囲の絵に対しての言葉ばかり入ってきちゃうと思うんだよね。だから、ちょっとの間は絵から離れてみるのがいいのかな…って」
「絵から離れる…」
「うん、何も考えない、絵のことについて…って、難しいよね…さすがに」
「矢花さ、しばらく暇？」
「え、はい」
「じゃあ明日さ、セッションしない？」
「………え？」
「矢花が普段使ってる防音室でもどっかスタジオでもいいからさ」
「あ、え、ちょ待って待って、Aさん楽器弾けんの？」
「弾けるから言ってるんだけど」
テンパった様子の矢花。
「…初耳だわ」
「あれ、こんぴとかから聞いてると思った」
「ちなみに何を？」
「ギター」
「へぇ…」
「趣味でよく練習してたんだよ、母親がアコギ上手いからさ」
「そうなんだ…」
矢花は何やら口元がニマニマと動いている。
「…嬉しいの？」
「え、あ、嬉しい…うん、嬉しいかな。」
「じゃあ明日また朝連絡するよ、私朝苦手だから遅いかもだけど」
「俺も遅いよ」
「はは、ちょうどいい」
なんだか一気に矢花と近くなったようだ。
そして不思議と、矢花と話している間は絵の余計なことを考えなくて済む。
「矢花と話してたらそれだけで気分晴れてきたわ、明日一緒にいたら本当に何も考えなくて済むかも」
玄関に向かう矢花の背中に喋りかけると、少し沈黙があった。
あれ、私やった？
「お役に立てたようで何よりです！」
ああ、大丈夫だった。
「なんか急にごめんね、私事に巻き込んじゃって」
「なんで謝るんすか、俺もAさんと話してて楽しいし、明日も楽しみだわ」
じゃあ、と言って矢花は部屋を出ていった。
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作者名：雪 | 作成日時：2022年9月24日 0時
