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「…え、なに」
「実は、Aさんがここで作業してるの見かけたことがあって」
「あ、そうなの」
「その…学祭の2週間くらい前の夜で」
「…待って、私変なことしてなかった？」
その時も確か激スランプで、誰もいないのをいい事に叫んだり暴れたりしていたような気がする。
一気に変な汗をかく。
矢花は無言で気まずそうに頷いた。
「…唸って筆をキャンバスに投げつけてた」
「……死んだ、私オラウータンかよ…」
「…っふ、」
私がそうつぶやくと、矢花は耐えきれない様子で笑いこけた。
「いや笑いすぎ…」
「今回もオラウータンになってないかな、と思って見たら、オラウータンどころではなかったってこと。」
「はは、矢花優しいね」
「いやいやいや、笑えないから。本当にどうしたの、これから安否確認とかした方がいいと思うんですが」
「安否確認…矢花がしてくれるの？」
「え、いや、嶺亜くんとかさ。ほらAさん通知切ったり電源切ったりしてるでしょうよ」
「してる。…でも、今回で懲りた。」
「うん、懲りてください。」
矢花くんはぷんぷんした様子でそう言った。
しばらくお互い黙っていると、矢花がおずおずとスマホの画面を見せてきた。
「…LINE、交換してなかったよね」
「…あ、うん。読み取る」
なんだか緊張している矢花に、こちらも緊張してくる。
読み取れた。
矢花のアイコンは愛用しているであろうベースの写真だった。
「…わかりやすい」
「なにが？」
「なんもないです。」
「Aさんアイコンないんだ」
「うん、なんかいい写真なくてさ」
「まああるよねそういうことは…ていうか！！今度から通知きんないでよ？」
なんだか矢花がこんな感じで私に話してくれるのがうれしくて、思わず笑いがこぼれる。
「承知しました」
「次嶺亜くんに会ったら凄いボコられるよ」
「ボコられたことは無いよ」
「俺はあるけどね」
「あはは、矢花ボコられてそう」
「おいおいおい」
矢花くんは、優しさなのか、何があったのかとかどうしたのとか聞いてこない。だけど、こうやってそばにいて話してくれている。
「ありがとう矢花」
「いいえ、もう帰る？」
「うん、もう帰ってやる」
「あははは、帰ってやる！」
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作者名：雪 | 作成日時：2022年9月24日 0時
