◇Story34 ページ35
.
「あの、水原さん。ありがとね、こんな私のお願いきいてくれて」
教室に戻るまでの階段で、俯いたまま山本さんがそう言った。
「いえ...私結局何もしてないですし」
そう、話しかけてくれたのは、櫻井くんなのだ。
結局私は何もしていない。
「ううん。本当に、嬉しかったから」
そう言う山本さんの顔は、その言葉に反して暗い。
どうしたのだろう。
「.....なんか、私努力してるのが馬鹿みたい」
「山本さん.....？」
ぽつり、と山本さんが言う。
その声は、少し涙ぐんでいるような気がした。
「結局、名前も聞かれなかったから覚えてないだろうし、目もそんなに合ってないから顔も覚えられてない。
何してるんだろう、私」
独り言を言うように、ぽつりぽつりとその言葉を漏らす。
「櫻井くんからしたら、私より水原さんの方が気になるみたいだし...」
「...え」
.....何でそう思うんだろう。
そんなわけないと思うけど。
「私が教えてもらった後に水原さんに聞いたり、水原さんが会釈するのに反応してたりしてたから...」
...それは。
前に数学を教えてもらったから。
数学が苦手だと櫻井くんが知っているから。
優しい櫻井くんは私のことを気遣ってくれるだけ。
きっと、私じゃなくたって、そうなんだ。
会釈だって、そう。
私じゃなくたって、話していたらそうなんだ、きっと。
どうしてそんなに山本さんが暗くなるんだろう。
「ごめんね、もう協力してなんて言わないから」
山本さんは、何を思ってそう言うんだろう。
何がそんなに山本さんを悲しませるんだろう。
私には、まだ、よく分からない。
「...山本さん」
先を歩いた山本さんの背中に、なんとなく問いかけた。
「.....恋って、なんですか」
知りたくなった。
山本さんを一喜一憂させるそれを。
私がまだ知らない、恋と言うものを。
「.....私にとっては櫻井くんのこと」
「.........」
「見てたら、わくわくする。話したら、嬉しい。けど、辛い。
難しい感情。だけど、なんとなく思うの、"好きだなあ"って
そしたらね、もっと、って感情が溢れ出すの」
涙声だった。
掠れた声で言うそれは、やっぱりまだ、私には難しい。
「櫻井くんはね、私の感情を支配するの。」
消えてしまいそうなほど儚いその言葉は、私の心に突き刺さるほど痛かった。
.
ラッキーアイテム
革ベルト
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 695人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あんでぃー
| 作成日時：2016年7月24日 18時
