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至極不思議そうな表情に前原は一瞬息を呑んだ。彼女の返事にもだが、少し伸びた前髪を軽く流して首を傾げる様までもAにかかれば一枚の絵に見えてくる。
女子なのだし、自分もだが子供なのだし、だとかそれらしい大義を留めていた前原は、それを頭の中で全部吹き飛ばした。
｢だ……って浅野さんめちゃくちゃ可愛いだろ!!!｣
｢は｣
今度はAの方が豆鉄砲を食らう番だった。呆けて言葉の出ない彼女に更に追撃が続く。
｢謙遜してるけど、びっくりするくらい美人だからな!?
3年になるまで話したこともないから浅野さんは俺のことなんて眼中にもないだろうけど俺はすれ違う度にずっと綺麗だなって思ってた！ 立てば芍薬座れば、ボンタン……？ ってやつ｣
告白紛いの言葉まで口走った前原が、息つく間もなく捲し立てる。聞き慣れない言葉を吐き出して失速した彼の深呼吸の間に、前原君……？ と困惑を覗かせたクラスメイトの声が彼の耳を突いた。
遅れて自分の言ったことを反芻した前原が、Aの言葉を遮ってこれ以上は何も言うなと言いたげに彼女の前に手を掲げた。ストップがかかり思わず口が噤まれる。
｢あー……だから、さ、特別美人だから変な奴に目つけられからクラスメイトとしてはほっとけないというか……
いや女子なら皆そういう意味では気がかり、で……
…………っあー！ とにかく!!!｣
一人唸っていた前原が、とうとう痺れを切らして思考を切り上げた。暮れてより際立つ街灯の下でスポットライトを浴びた少年が観客に向き直る。
肩を竦めたAの様子に我に返った前原は、それ以上言葉を紡げなかった。ただ、ぽつんともったいないと思う気持ちが彼の中に残る。
容姿や空気で醸し出される人を惹きつけるものは、当人の自覚が合わさればより洗練されていくとは前原の持論だ。ところが眼前のクラスメイトは反応から察するにあまりにも無頓着だ。
しかし勢いが失速した今口に出すのは照れも交じって幅かられる。ぱちぱちと瞬きをするAを背に、前原は街灯の下先程までの自分の行動に身悶えていた。
｢ぼんたん、じゃなくて牡丹だよ｣
｢へ、｣
間抜けな声で暫くぶりに聞いた声に羞恥に項垂れていた顔が思わず振り返る。くすくすと眉を下げて笑うAは至極楽しそうで、落ち着きかけていた前原の脈が僅かに速さを取り戻した。
どうしようもなく人を惹きつけるもの。人はそれを魅力という。
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続く (更新停止中)
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作者名：窓 | 作成日時：2021年10月30日 20時
