浅野女史の肖像 (ページ1)

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前原君は浅野さんが気になるページ1

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※時系列：一学期始まってすぐ、カルマの時間より少し前

　前原陽斗は、綺麗なものや可愛いものが好きだ。付き合いの途切れない女子は総じて"そう"だと思っているし、友人関係であっても顔が好みだなとこっそり心の内で思うこともある。

　そんな明け透けな性格をしている前原は、特にプラスの感情を出したがる。彼の根本に、可愛いだとか綺麗だとか、素直に褒められると女子は可愛くなるという信念に近い銘があったからだ。
　好きなものが自分の言葉で研ぎ澄まされていくのを実感するのが、彼は好きだった。だから、タラシだの女好きだと言われようとさして気にせず我が道を進んでいた。

　そんな前原が最近視界に入れ込みがちなのが、三年になって初めてクラスメイトとなった学内でも目立つ少女だった。

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　E組での学校生活が始まって約一週間。国家機密の担任にも徐々に慣れ、始業式に遅れた際の罰による疲労も消え始めた四月のことだ。

　いつも共に下校していた磯貝がバイトということもあり、前原は一人で駅近くの本屋をぶらついていた。
　受験生らしく参考書を見て回ったり、好きなバンドの新曲や漫画の新刊を買おうか迷っている間に時間が経ち、彼が自宅の最寄りの駅に着く頃には、春らしい街路樹の色も陽に染まった後だった。

　駅からひとたび離れれば、薄暗い道を外灯が照らし出す時間だ。暗さには慣れていた前原だったが、カーディガンでは少々肌寒い気温にぶるっと肩が軽く震えた。

　普段なら磯貝と歓談を交えながら帰路につけばあっという間なのだが、しんとした住宅街の中で一人となると、道半ばでも心寂しいものだ。
　せめて温かいものでも飲もうかと、目先に見えた自動販売機に駆け寄った。小さめのホットドリンクでも飲み切った頃にはちょうど家に着くだろうと小銭を投入口に滑らせる。

　ふと少し離れた十字路に目を向けた前原が明るい髪を靡かせる人影を見つけたのは、ボタンを押す直前だった。

　彼の向かっている方向、その途中にある十字路から曲がってきたらしい影は、結った長い髪を遊ばせながらみるみる離れていく。暗い色で分かりづらかったが、ジャージを着てロードワーク中なのだと察しながら、前原はその淡い赤毛に、どこか浮世離れした同級生を想起していた。

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