19 ページ41
.
「すみません、二人とも何か食事を摂った方がいいと思いまして……おや、イリーナ先生おはようございます」
どうやらベランダの鍵を開けたまま食事の買い出しに部屋を飛び出していたらしい、と空き巣云々と今の言葉でカルマは把握した。そもそも高層階にあたるのだから過剰に心配しすぎだろうと思うところはあるが、己が超生物となると危機意識も変わっていくのだろう。一人勝手に納得した彼と対照的に、口を開いたのはイリーナだった。
「おや、じゃないわよ！ ろくに説明もせず来いっていうから来てやったってのに……」
休日の呼び出しに機嫌がよくないのか、腰を折ったイリーナがソファに縮こまるAの頬を軽く叩く様子にカルマが思わず制止の声を上げる。
「A、死んでるところ悪いけど起きてもらうわよ」
「ちょっ、何してんのビッチ先生」
「カルマ君、彼女には私から頼んであることがあるんです」
毛布を引き剥がしかねないイリーナの腕に伸びかけた手が殺せんせーの言葉に空を切ったが、昨日のAの状態を思えばまだ彼女を寝かせていた方がいいのでは、と彼が思うのも仕方なかった。現に、涼しい筈の室内でAの顔は薄ら赤く熱を帯びているし、苦悶の表情から体調が全快しているとは考え難い。
「ぅ、ん、」
カルマの懸念を置き去りに、掠れた声が耳に飛び込んだ。イリーナの人肌が離れた頬をもごつかせ瞼が震える。じき目覚めるのだろうと思う間もなく赤紫の瞳が瞼の緞帳の下から覗く。とろとろと視線を彷徨わせるAの様子から、やはり体調は万全な状態から程遠いことが窺える。
「……びっち先生？ 何で……」
「タコにあんたの家に荷物取りに行くのに付き添えって言われてるのよ」
経緯なんてこっちが説明してほしいくらいだわ、と続けた彼女の指が上体を起こしたAの鼻先を軽く小突く。そんな微細な衝撃にですら体勢を崩しかける少女と慌てたイリーナを横目に、カルマはそこで殺せんせーが彼女を呼びつけた理由に気付いた。
口頭で預かる預けるとは簡単に言えるが、容易にことが進むわけではない。これからAがカルマの家に滞在するとしてまずぶつかる問題の一つが衣類だ。二人のサイズが異なるのは勿論、性別も違うとなるとAの私物があった方が何かと助かる場面もある。イリーナを呼んだのも、もしAの母親と鉢合わせた時のことを思えば
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 603人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
窓(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます！これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください！！ (2022年6月26日 19時) (
レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます！浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……！！ (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー！が、がんばれー！これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん！！ この作品本当に大好きです！丁寧な描写がすごく好きです！ (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます！更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです！ (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：窓 | 作成日時：2022年3月22日 20時
