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顔を完全に出すやいなや微かに風が吹き、前髪のまばらに散ったAの額を冷えた感触が覆い肩が跳ねた。瞼に近いそれに開いた目が経たずして優しい圧迫に呑まれて閉ざされる。
「だ、大丈夫です。少し寝たら大分ましになりました」
「そうですか、それはよかった。ですが顔色もよくないようですし、まだ寝ていた方が」
「いえ、」
電気を消しましょうか、水分も摂らないといけませんね、と濡れタオルを絞った手が照明のスイッチへとぬるぬる動く。が、それを制したのは勢いよく上体を起こしたAだった。制止の前に先走った触手がスイッチに伸び、一帯を薄暗くする。
「もう大丈夫ですので、家に帰ります」
膝掛けになった毛布を掴んだまま、澄ました声が部屋中を走った。
「ですが、」
「何も連絡を入れていないから母も心配しますし……あ、カルマ君に借りた服もまた今度返さなきゃ……
制服も一回クリーニングに出さない、と……?」
毛布を捲りフローリングに足をおろしたAだったが、立ち上がろうとした矢先に膝がかくんと折れる。突然低くなった視界と尻餅をついて遅れてやってきた衝撃に、すっかり目の覚めたAがぱしぱしと瞬きをした。
「浅野さんっ!?」
ぎょっとした殺せんせーが文字通り目にも止まらぬ速さで彼女に近付くが、きょとんした本人は笑顔のまま毛布を巻き込んだ手を床に着く。
「あ、れ……すみません大丈夫です、ちょっと立ちくら、み、っ?」
立ち上がろうとしてまた膝が笑う。いうことを聞かない体にAが、Aだけが己の顔がひどく赤らんで不規則な呼吸に振り回されているのに気付いていなかった。力の入らない足が砕けた彼女を殺せんせーがソファに寝かせても、赤紫の瞳は至極不思議そうに丸まったままだ。
「殺せんせー……?」
「自分では気付いていないのかもしれませんが、ひどい熱だ……帰るにしてももう少し症状が落ち着いてからにしましょう」
「っ、や、いいです帰れます! 折角お母さんも帰ってきてるから────」
「そのことなんだけど」
宥める殺せんせーを撥ね除けんばかりにAが起きようとするのと、二人の会話に第三者──カルマが割って入ったのはほとんど同時だった。片手に掴んだままの見覚えのある端末と、平静を装った困惑交じりの声色に少女の表情が笑顔を崩す。根拠はないが、Aは握り込んだ手で耳を塞いでしまいたくなった。
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窓(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます!これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください!! (2022年6月26日 19時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます!浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……!! (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー!が、がんばれー!これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん!! この作品本当に大好きです!丁寧な描写がすごく好きです! (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます!更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです! (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:窓 | 作成日時:2022年3月22日 20時