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Aから何か聞いているのか、と尋ねた声は気落ちしている。
「……萎びてる浅野クンとからしくなさすぎて心配になってくるんだけど。熱でもある? 浅野さんみたいに」
「…………熱が、あるのか」
質問を丸ごと無視した軽口も咎めず、自分の話に乗った学秀にいよいよカルマは冗談抜きで彼が心配になった。それだけAのことが気がかりだったというのもあるのだろうが、とまで考え半信半疑だった彼女の話が八割方信用に値する方へ傾いた。電話越しにも伝わる学秀の動揺、彼にそこまでの反応をとらせるものはそれしか心当たりがない。
カルマの脳が、二つ
何故それが突然湧いたように浮かんだのか彼自身理解が追いつかなかった。最初のうちは。
一つは、椚ヶ丘に入学して間もない頃、新入生代表の挨拶を務めた学秀の何てことはない風の噂だ。
もう一つはそれよりも記憶に新しい修学旅行一日目の朝、駅でのAとの会話だ。瞬きすら鈍い彼女を学秀から引き離した後、彼女は何を言っていたか。
────悪戯好きなお兄ちゃんはちょっとやだなあ
────そこは俺が上なんだ
──── 私誕生日遅い方だからさ。早生まれじゃなかったら赤羽君の方がお兄さんだね
あの時、Aは確信を持ってそう言っていた。つまり彼女の誕生日は、早生まれの中でも
誕生日が一月一日、ってどんだけ一番が好きなんだよ。胸中で学秀に対して軽くついた悪態が、Aの言葉とリンクすることもなかったのだ。
それがたった今、繋がった。殺せんせーが静かに見守る背中が、僅かに肩を落とす。八割まで傾いていたものが完全に腑に落ちて、そこで初めてカルマは自分が緊張に肩を張っていたと気付いた。
「ああ……誕生日も一緒、ってことは、本当にきょうだいなんだ。浅野さんと」
張っていた糸が切れ、呼気とともに声が抜ける。一人落ち着きを取り戻した彼とは反対に、電話越しの空気が揺らいだ、気がした。
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窓(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます!これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください!! (2022年6月26日 19時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます!浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……!! (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー!が、がんばれー!これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん!! この作品本当に大好きです!丁寧な描写がすごく好きです! (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます!更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです! (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:窓 | 作成日時:2022年3月22日 20時