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沈んでいたAの表情が僅かに浮上の兆しを見せる。それでも、完全に本調子に戻ったとはいえないが、窓から侵入した殺せんせーのその更に向こう、外へ視線を向けた。
「……音、がしまして。それで少し考える時間がほしいな、って思って……気付いたら口に出てたんです」
先生じゃないですよね? と確信めいた声色で巨体の傍を通り過ぎたAは、窓枠に触れた。殺せんせーの潜んでいたらしい真新しい青いペールが転がるのを横目に、サッシに指をかけて真下を覗き込む。外に垂れた橙髪の糸が伸びた先で、見知った顔ぶれと彼女の視線がぶつかった。
「殺せんせーではないとは思っていたけど……ずいぶん大人数だね」
隠密行動の訓練? と軽口を叩けるまでに戻ったAが、校舎の壁に背を預けるクラスメイト達──それも、修学旅行で班を共にした六人に小さく苦笑いを向けた。盗み聞きしていた後ろめたさに苦笑を返す者、かくれんぼで見つかった子供のようにおっかなびっくりしている者の中、壁に背を預けていた赤髪一人だけがあーあとわざとらしい声を上げる。
「殺せんせーがゴミ箱から顔出さなかったら驚いて蹴飛ばしたりしなかったのに」
「にゅやっ!? だってまさかカルマ君達までここに隠れてると思わないじゃないですか!!」
からかい半分のカルマとそれに慌てふためく殺せんせーを視界に僅かに顔を外に覗かせていたAに、他方から声がかかる。
「ごめんね浅野さん、僕らも何か気になっちゃって……」
「そんなことは……」
眉を下げて軽く頭を下げた渚に、窓の下を覗き込んでいたAは言い淀んだ。聞かれては困るような話をしていた訳ではない。しかし、もやついた渦は彼女の内側をつねり上げて薄く笑うしかさせてはくれなかった。
「ごめんね、何だかいらない心配させちゃったみたいで────」
サッシに手をかけて謝りかけたAの声が、突然身体に受けた衝撃に息を詰まらせた。窓枠へ引きずる力に目を白黒させているうちに、枠に押しつけられた腹から潰れた呻き声が小さく上がる。
「ぐぅ、あ、ちょ……どうしたの、茅野さん」
襟元を引っ張られてつんのめった橙髪が、サッシから零れ落ちて茅野の手を掠めた。爪先立ちしても足りない差を見上げた瞳が心なしか潤んでいる。思いもよらない反応に言葉が遅れた彼女に替わって、茅野の方が声を張り上げた。
「浅野さん、E組から抜けないよね!?」
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窓(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます!これから浅野さんがどうなるのか、他のキャラクターとの絡みも含めて楽しく読んでいただけるよう更新頑張りますので、気長にお待ちください!! (2022年6月26日 19時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - カミレさん» コメントありがとうございます!浅野さんがこれからどうなるのか、私自身決めかねている部分もありますが最後まで楽しんでいただけると幸いです……!! (2022年6月26日 18時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - あ、浅野さんー!が、がんばれー!これ続きが気になる……どうなるのこれ…… (2022年6月1日 22時) (レス) @page21 id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 胸が痛いです。すごく、すごく、浅野さんの気持ちが痛いくらいに伝わってきます。がんばって浅野さん!! この作品本当に大好きです!丁寧な描写がすごく好きです! (2022年5月31日 9時) (レス) @page20 id: ac25ff3042 (このIDを非表示/違反報告)
窓(プロフ) - 猫さん» 遅れてしまってすみません、コメントありがとうございます!更新が滞っていますが楽しんでいただけると嬉しいです! (2022年4月19日 22時) (レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:窓 | 作成日時:2022年3月22日 20時