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「ヘ、ヘアオイルつけたから。私も好きなんだよねこれ」
解いていた髪をまとめて鼻に寄せる。旅館のシャンプーとは違う、花を想起させる慣れた匂いに火照りかける心臓をAは何とか落ち着かせた。好きなものを肯定されるのは嬉しいことだが、流石に間近で嗅がれるのは抵抗があるのだ。
「ねえ、さっきナイフ避けた時のアレどうやったの？ 俺完全に当たったと思ってたんだけど」
「ああ、あれ？ 別に難しいことはしてないよ、重心を上手くずらすとギリギリで避けてるって錯覚させられるみたいで」
「へー、今度体育の時に教えてよ」
「私なんかでよかったら。あれくらいなら赤羽君すぐできそう」
他愛もないことを話す中でそんな約束を取り付けて間もなく、二人の足音が騒がしさから少し離れた部屋の前で止まった。障子に近かったカルマが取っ手に手をかける。
「烏間せんせー、きたよ」
ノックもせず声をかけると同時に廊下と部屋の隔たりが開く。もうちょっと間を置いてから開けた方が……と突っ込むこともできず、Aは部屋の中にいた烏間に失礼します、と慌てて頭を下げた。
防衛省への報告書を作る最中だったのか、パソコンと向かい合っていた烏間が画面から目を離した。
「ん、ああ……わざわざすまないな。じゃあ赤羽君から……浅野さんは座って待っていてくれるか」
「はい」
烏間の指示を聞いたAが、少し横に逸れて傍の壁に背を預けて腰を下ろした。
羽織の紐を手持ち無沙汰に弄りながら、触診を始める烏間と彼に背を向けたカルマに目をやる。不意打ちで殴られた部位を診るようで、肌蹴させた肩の向こうに僅かに見えた内出血の跡にAの顔が強ばった。
喧嘩慣れしているカルマは、患部に触れられながら痛みの有無を伝えている。が、Aの方は近接格闘に覚えがあるものの、生々しい怪我にはあまり耐性がない。怖いもの見たさでちらちらと視線を泳がせた。
あまりに凝視する彼女に同じく暇を持て余していたカルマが気付かないはずもなく、Aが自分を見るタイミングを狙ってぴら、と襟元を摘んで更に乱す。途端、心配そうに揺れていた赤紫の目がきゅっと見開かれて困り眉の顔が逸らされた。
ただでさえ昨日から妙に意識してしまっていた相手の上、唐突に悪戯に肌を見せられては慌てふためくのも仕方ないのだろう。予想通りの反応に、笑いを堪えきれなかった赤髪が小刻みに揺れた。
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窓(プロフ) - 星咲夜空@スマホさん» コメントありがとうございます。糧とまで言われて本当に嬉しいです……！ 今までほどの更新頻度は保てないですがお付き合いいただけると幸いです！ (2021年9月4日 1時) (
レス) id: 1c42528565 (このIDを非表示/違反報告)
星咲夜空@スマホ(プロフ) - 更新ありがとうございます。この作品の更新が生きる糧です、これからも無理のない範囲で頑張って下さいませ！ (2021年9月4日 0時) (レス) id: 2efeb2cec1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：窓 | 作成日時：2021年9月2日 20時
