日傘 ページ7
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その人には赤が良く似合っていた。
朝練のあと、パック牛乳のストローをくわえながら校門をぼんやり見やると
今日も８時ジャストに赤い日傘が
ゆらりと現れた。
赤い日傘も
高校生が日傘をさすのも
このご時世たいして変わった事ではないが
男子高校生が
春夏秋冬ずっとそれをさしているのは
やはり異様に思えた。
…カタン
８時５分。
日傘の主が今日も定時に前の席に座った。
M「櫻井君おはよう」
S「……」
無視かよ。
挨拶はご機嫌が悪くてもしなくちゃいけないんだぞー。
机の脇にかけられた赤い日傘を見ながら
退屈な授業が始まる。
変わったばかりの制服の半袖シャツから
白い腕がのぞく。
白い腕には赤い日傘が似合う。
時おりシャーペンをノックしたり
トントンと指でこめかみをつついたりする
俺だけが知る彼の癖。
クラスで一番彼を知るのは俺。
そんな自負で頬が緩む。
６限のチャイムが鳴って
慌ただしくなった教室。
彼が急いで席を立った拍子に
日傘が倒れて、とっさに拾おうとした瞬間。
S「サワルナ！！」
聞いた事の無い低く鋭い声にビクリとした。
S「…大切な人の形見なんだ。」
放課後の喧騒に消えてしまうくらいの
小さいけれど、確かに届いた声。
M「…ごめん。」
…
夕方の淡い光の中へ
赤い日傘が消えてゆく。
知っているようで全然わからない彼の事。
わかりたいと思っても赤い日傘で
遮られてしまう気持ち。
サワリタイ。
どうすれば
あの赤い日傘を避けて
真っ白な彼に触れられるだろう。
悶々として
彼がさっきまで座っていた椅子の背を
何度も執拗になぞる。
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作者名：ゆみ
作成日時：2017年5月29日 19時
