ブランケット ページ15
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小さな子どもだった時の記憶。
大学病院の真っ白な部屋と
淡いベージュのブランケット。
あごの下まで丁寧に掛けられた上から
「痛いの痛いのとんでけぇ」
うつらうつらする意識の中で響く
甘くて低い声。
ぽんぽんとゆっくり身体をさするリズム。
長かった入院生活で
何人か「担当の研修医のおにいさん」は
いたのだけれど
今でも急に冷え込んだ
眠れない秋の夜に思い出すのは
あの声。
あの手の感触を思い出していると
不思議とまぶたが落ちてくるのだ。
…
M「…久しぶりだなぁ。」
夏の疲れか、決算期の残業続きのせいか
会社で目眩がして運び込まれたのは医務室。
大人になってからというもの
友人に笑われるくらい健康に気を使い
自分が病気だったのを思い出すのは
健康診断の既往症を記入する時くらいだったから
真っ白な部屋と
淡いベージュのブランケットに
戸惑いと不安が入り混じった。
また再発していたらどうしよう。
仕事の引き継ぎ…あ、両親に連絡。
母さんまた泣かせるな…
えっと、あと新聞屋とスポーツジムと
ぐるぐると巡る考えを
ぽん…ぽん…
温かな手のリズムが遮って
「痛いの痛いのとんでけぇ」
柔らかな声が甘く俺をつつんだ。
M「…あのそれ。」
目が開かないまま口を開く。
S「ごめん。起こした？昔、大学病院で小児科にいたもんだからクセで。」
きっちりとあごの下まで丁寧に掛け直されるブランケットの感触。
うん。きっとそう。
この人がそう言うなら
きっと痛いのはとんでいってくれるはず。
M「あの…もっとしてください。」
どうかしてる台詞に
S「ふふ。うん。」
ぽん…ぽん…と眠りに誘われる。
目が覚めたら、彼と話をしよう。
大学病院のレストランの蕎麦定食の話。
売店のおっかないオバサンの話。
小児科のお化粧の濃い婦長さんの話。
たくさん、たくさん話をしたら
きっといい友だちになれるかも。
急展開でさっきまでの不安が
脳内で喜びに変わってゆく。
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作者名：ゆみ
作成日時：2017年5月29日 19時
