雨上がりの窓 ページ43
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梅雨の入りだろうか。
寝室の窓から見えるヤマボウシの真っ白な花はしとしとと濡れ続けている。
S「お先〜」
ドライヤーしたてのふわふわの髪を揺らしながら入ってきた翔さんは
さっきまでの妖艶さも洗い流してきたようだ。
用心深い翔さんからは何の香りもしない。シャワーで汗を流しただけで、石鹸はあえて使わないのだ。
それが今日に限って気に障って
M「…色気も素っ気もないね。」
ベッドに半身を起こして煙草をくわえなおすと
フンと鼻を鳴らして
S「今日の俺のフェロモンは売り切れ〜」
俺から煙草を奪ってニカッと笑った。
脳天気な笑顔がますます気に障って
M「マーキング〜！！」
後ろからシーツごと翔さんに抱きついてグリグリと身体をこすりつけてやった。
S「やめろよ〜(笑)」
その割りになすがままの翔さんが
S「…潤の次のオフは？」
晩ご飯の献立でも聞くように
なるべく軽い口調になるように細心の注意をもって言う。
M「…雨止まないねぇ」
俺は翔さんのこの台詞が嫌いだ。
だってそれに答えたらもう今日の情事は終わりなのだから。
次に逢うまでは再び他人の顔で過ごさなければならない。
S「潤の天気予報は聞いてねぇよ？(笑)おい傘貸して。ビニ傘あんだろ」
M「ないもん。」
S「またまた。一本くらいあんだろ。」
M「俺は傘はささない主義なの。」
S「なんだその無駄に男前エピソード(笑)じゃあタクシー呼ぶか…てか離せよ。」
まだマーキングの姿勢のまま
翔さんの背中の筋肉を頬で感じとる。
S「…雨止んでるし。」
わかってる。
もうヤマボウシの花が乾きはじめてるのも
今がバイバイを言うタイミングなことも。
わかってる。
わかってるってば。
だけど。
M「俺の涙の雨は止んでないもん。」
グリグリとまた背中に顔を押しつければ
S「まったく…三十路の泣き虫って。」
身体が一瞬ふわっと浮いて
再びベッドに投げられた。
雨はまだ降り止まない。
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作者名：ゆみ
作成日時：2014年7月20日 14時
