車の窓 ページ41
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S「もー抱っこはしません！お前、犬なんだから歩きなさい！」
「うーーッ…」
早朝の住宅街。
豆柴のニノとお散歩中。
なんだけど。
この子、犬なのに外気に触れるのがイヤみたいで(笑)すぐ抱っこをせがむんだよね〜
S「こないだ相葉先生も言ってたでしょ？もうちょっとお散歩頑張ろうって」
「…くう〜ん」
うっ。おねだり光線ッ
地面に座り込んでこちらを見上げる。
あぁ…そろそろ戻らないと会社に遅れるし
S「ねぇ、もうすぐお家だからあんよして？」
黄色のリードを必死で引っ張っていれば。
交差点の向かい。
よく見かける車がスッと止まった。
運転席には紫のニット帽をかぶった男の人。
思わず同性の俺でも見とれちゃうくらいのクールな美貌なんだけど
S「ふふ、まただ。」
いつも楽しそうに歌ってる(笑)
車の中だから何を歌ってるかはわからないけど
クールな外見とのギャップが
かわいい…
ってのは成人男性にはおかしいか。
グイグイッ！
S「…ん？あ、ごめん。」
ものすごい勢いで手の中のリードが引っ張られて、さっきまでお地蔵様だったニノがすたすたと歩きだす。
S「ねぇニノ〜あの人なに歌ってんのかな〜」
くるんと巻いた尻尾に話しかければ
「ふんッ！！」
さっきまでの甘えん坊は何だったのかと思うくらいに急に鼻息が荒くなって
いいから早く帰るよ！と言わんばかりに
また黄色のリードが引っ張られた。
…
O「これ、翔君好きだったよね」
俺の勤める出版社の一室。
インテリアやアートを取り扱う雑誌で俺は普段は建築物のレポートが主なんだけど
エンタメ系のページもあって
O「ぶ、ぶるのまーず？」
S「えっ？！来日するの？てか智君いいの？」
お洒落雑誌の編集長なのにカタカナが喋れない大野さんを揺さぶれば
O「岡田っちが都合つかないって言うから」
S「ぶっさん…」
「岡田チーフと呼びたまえ(笑)」
エンタメ担当のチーフがウインクした。
…
コンサート会場のVIPシートは華やかで
SNS用だろうか、カシャカシャとiPhoneのシャッター音がざわめく。
その輪の中にひときわ目立つ紫の…
M「あ、豆柴の。」
S「あ、ニノの。」
M「…ニノ？」
S「二宮金次郎のニノなんだけど…」
なんだろう。
初対面なのにワクワクが俺を饒舌にさせる。
なんだろう。
このときめきは。
幕の向こうのスーパースターのせいか
隣りで微笑む彼のせいか。
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作者名：ゆみ
作成日時：2014年7月20日 14時
