ノッカーアップ ページ38
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カチ、カチ、カチ…
さっきからクリックしてるのはイギリスのアンティークの時計たち。
S「早く寝ろよ。アンティーク？時間がすぐくるうだろ」
M「大丈夫。翔さんが起こしてくれるから」
S「甘えんな(笑)」
つむじにそっとキスの感触がして翔さんが寝室へ向かう足音が遠ざかる。
やっと終わりが見えてきたドラマ。自分へのご褒美に時計を買いたいんだ。
M「1760年…って何時代だ？」
気になり出すと調べたくなるのは悪い癖。
M「産業革命！世界史の教科書〜」
…
カチ、カチ、カチ…
M「…うっせ。」
はたと顔を上げれば見慣れない煉瓦の壁。
どうやら夢の中らしい。
カチ、カチ、カチ…
クリック音だと思っていた音はガラス窓を何かが叩いている音のようだ。
ノックのように控えめに３回。またしばらくしたら３回。
M「…もうちょっと寝かせて」
古い窓を開けるべく手探りでベッドから出る。
なんとか木枠をガタピシと開けると
「morning,Sir」
長い棒を持った男が立っていた。
M「…あ、good morning」
そういうと男は会釈して、また向かいの家の窓を叩くべく長い棒を抱え直す。
外はまだオレンジ色のガス灯がついていて、同じような煉瓦の街並みの向こうには
M「あれ、ここロンドンじゃね。」
去年観光で行った教会。
しかしやけに新しい。
M「あのー」
S「はい？」
M「今って何時代ですか？」
S「ぇ？僕はノッカーアップなんで難しい事はわからなくて…新聞とかに載ってませんか？ごめんなさい、次の人を起こさないと」
翔さん似の撫で肩の上で長い棒が揺れる。
M「次の人？」
翔さん似はまた次の窓を叩く。どうやらそうやって人々を起こして回る仕事らしい。
M「…行っちゃった。」
机の上の新聞は1760年。
M「産業革命まっただ中じゃね。てかアンティーク時計、手に入れ放題じゃね？」
カチ、カチ…
明るくなったら、時計屋に行こう。
あ、翔さんにもお土産に。
…
カチ、カチ…ゴチン！
M「あ！すいません、ノッカーアップさん、この辺に時計屋ありませんか？」
S「お前目覚ましかけろ。人を頼りにすんな」
M「あーっ！時計！」
S「はいはい、時計くらいリオの土産に売るほど買ってきてやるから」
今の俺には専属のノッカーアップがいる。
だから時計はアンティークの、
あの人のような優しい時間の告げ方をしてくれるヤツが欲しいんだ。
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作者名：ゆみ
作成日時：2014年7月20日 14時
