スタジオの窓 ページ11
S「あ゛ーッ！Tシャツくせっ」
ぶつぶつと呟きながら誰もいないスタジオに機材を運び入れて、スクリーンを広げライトを立てる。
有名カメラマンのアシスタント、と言えば合コン受けはすこぶるいいが
実際は洗濯物を乾かす時間も無いくらいの激務。慢性睡眠不足も手伝って生乾きのTシャツの臭いに、己のせいとはいえイライラする。
「櫻井〜！お前、この牛乳じゃねえよッ！何年俺についてんだ」
知らねーよッ！俺は写真を勉強しに来てるんであってアンタの嫁じゃないんだ…
そうこうしている内に撮影が始まる。
「OK ! That's good ! 少し手を顔に… 」
今日は女性ファッション誌のグラビア。
カメラの前の松本潤も時おり見かけるアイドル誌とはうって変わって、魅惑的な表情でこちらを見つめる。
閉め切ったスタジオの中で唯一解放されているレンズの窓。俺にはまだ覗く事が許されていない窓。その窓から見る景色を想像しながら、師匠の後ろから撮影を見守る。
俺の師匠とは長年の付き合いだから、たいていの人が吹き出してしまうThat's good にも松本潤は表情を崩さずに微笑み続ける。
あーそういえば。
テレビでレンズの向こう側を見てるとか言ってたな。あんな台詞言ってみてえな…
つかTシャツくせっ！！
「ちょっと休憩しようか〜櫻井、俺となり行ってくるから。」
先生がそそくさと席を立つ。あ〜隣りのスタジオの女優か。
お♪今日のケータリング美味そう〜
かわいらしいカップケーキに手を伸ばしたら
パシっ。
S「へ？あっすんません！あの僕、撮影の関係者で。その…松本さんのことずっと…」
M「知ってるよ？カメラのアシスタントさんでしょ？そのレモンの、俺食べたいから譲って？」
松本潤が俺の手首を握ったまま、さっきとはまるで違うイタズラっ子の笑みを浮かべる。
S「も、もちろん！」
その横のチェリーをあわあわ取って、休憩スペースに腰掛けて師匠が戻るまで煙草をくわえて雑談する。
M「名前…ごめん」
S「あ、櫻井です」
M「だからチェリーの！(笑)」
S「ち、違います！これは偶然…」
無邪気に笑う顔。俺だったら絶対いまの顔を撮るのに。こんな表情するんだ。
S「そういえばレンズの向こう側って何をイメージしているんですか？」
M「イメージ？してないよ？」
そう言って松本潤は俺に向き直って、さっきの魅惑の表情を浮かべた。
M「ずっと何年も後ろの櫻井さんを見てたの、気が付かなかった？」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 533人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆみ
作成日時：2014年7月20日 14時
