厨房の窓 ページ2
S「遅くなっちゃった…」
司法書士事務所で働く俺。
正確には司法書士を目指してまだまだ勉強中で、今日もコピーだのおつかいだの雑用を片付けていたら、ランチタイムはどの店も終わり…
あーさっきのファミレスに戻るか〜とため息をついた俺が隣の窓ガラスに映る。
イタリアン、かな？トマトソースとオリーブオイルのいい匂いが空腹にこたえる。
S「わぁ…かっちょえぇ」
ガラスの向こうは厨房で何に使うかはわからないけれど、大小の鍋やら、ザルやらがずらりと整頓されて並んでる。
その奥には大きなステンレスの調理台。
もちろんディスプレイじゃなくて、ちょっと前まではランチタイムで使っていたはずなのに、どこもかしこもピカピカだ。
昼休みが過ぎるのも忘れて、ジイッと窓を覗き込むと、一人の男が忙しく動きまわっているのに気が付いた。
まかないってヤツかな？野菜を刻んで、パスタを茹でて、ソースを炒めて…
料理は麦茶しか出来ない俺には神業に見える。
トングのようなものでくるくるっとパスタを盛り付けた男が振り返って目が合った。
あ、やべ。
急いでファミレスに向かおうとしたら
M「ねぇ、パスタ食わない？」
男が勝手口から叫んだ。
…
S「ウメェ〜あんたすごいねぇ〜」
男はコックの見習いで、練習をしていたらしい。付け合わせに出してくれたカボチャとキムチのサラダも絶品で。
S「店出せるよ！うまいよ！」
M「まだまだだよ。これね、カボチャをチンしてキムチとオリーブオイルと混ぜるだけ。アナタでも簡単に、えと…名前なんだっけ」
S「あ、櫻井翔です。すいません、お食事までいただいたのに名前も名乗らず…名刺、名刺」
M「いいよ。冷める前に食べて。俺は松本潤。この店の…」
「おい！バンビーノ！！」
そこへ綺麗な厨房には似つかわしくない怒鳴り声。思わず肩をすくめる。
S「…バンビーノ？外国の人？」
M「違うよ。見習いって意味。あ、皿はそこに置いといて。俺行かなきゃ」
S「えとお金…」
M「いいよ。まだ練習だし。じゃあね」
S「えとあの…」
M「なあに(笑)？」
S「俺もッ。俺も司法書士のバンビーノなんだ」
仕事に戻らなくちゃいけない彼にどうしても伝えたくて叫ぶ。
M「そうなんだ(笑)今度は名刺、持ってきて。俺がいつか店を出す時、手伝ってくれる？」
にっこり笑った彼を
S「うん！また来る！」
全力で支えたい。なぜかそう思ったんだ。
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作者名：ゆみ
作成日時：2014年7月20日 14時
