朝はもう来ない ページ1
久しぶりに訪れた街は大きく発展し、人で溢れかえっていた。
さすが世界最大の街。
変わり果てた街を見渡して、シュイは小さく呟いた。
大道は変わらないが景色がまるで違う。気をつけなければ迷ってしまいそうだった。
賑やかな表通りから一本裏に入れば、一気に喧騒は遠のき、湿った暗さがまとわりつく。手に持った地図を頼りに、シュイはそれを振り払うように足早に進んだ。
ふと道端の水路に目を落とす。水路といっても、水はほとんどなくどろに覆われている。シュイは集中するように鋭く息を吹くと水路に沿って素早く手を振った。銀冠の中心、額を飾る黒玉が煌めく。
歩き去るその横では、水路に水が流れていた。
川下から、突然の清水に驚く声が聞こえる。しかしシュイは、はなから興味もないように目をそらすと、そのままするりと古びた酒場に滑り込んでいった。
「情報を買いたい」
いきなりそう言い放ったシュイを、店主は警戒するように見やった。
「見ない顔だな。どこでここを聞いた」
「知りたいなら金を払え、情報屋」
感情を伴わない声にため息を1つつく。
「何を知りたい」
俯いていたシュイは、深く被ったフードの下から店主を見た。気圧されるように、店主の背が棚にぶつかる。ガチャンと食器のぶつかる音が、そう大きくはない店に響いた。
「火を操る人について」
気を落ち着かせるように、店主は大きく息を吐いた。
「先払いだ」
シュイはおもむろに宝石を一つ取り出し、カウンターに置く。
「足りねえな」
「これだけでもかなりの価値はあるはずだが」
「言っただろう。この情報は高い。金が無えなら売らないだけだ」
店主とシュイの見つめ合いが暫く続いた。ふと目を逸らし、もう一つ宝石を取り出そうとしたシュイは不意に跳び上がった。カウンターに小ぶりのナイフが刺さる。ちょうどシュイの脛の高さだ。飛ばしたのは所謂悪党。
「へー、なかなかの美形だな」
跳び上がった拍子にフードが落ちたのか。影になっていた顔が明かりにさらされていた。
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作者名:和人 | 作成日時:2020年2月15日 1時